第1章 Umbrella【1】
「ねえ、あの子がそうなの?」
「雨が降るといつもこうだよ」
「頭おかしいんじゃねえの」
「一緒のクラスとかまじないわ」
ひそひそとした話し声は教室中に広がる。
去年、彼女と同じクラスだった生徒に言わせると、雨が降っても傘を差さずに濡れて教室に入ってくるのだそうだ。
その度に制服からジャージに着替えるのだという。
そんな彼女の姿は、同世代の思春期真っ盛りの人たちには気に食わない存在のようで、男女ともに嫌われていたし先輩後輩にも彼女のことは知れ渡っているらしく、誰も彼女の近づくことはなかった。
先生たちもそんな彼女のことは気にはかけるが、あまり積極的に接しようとはしていないらしい。
それは教師としてどうなんだろうとは思ったが、俺自身もあまり関わりたくないと思った手前、何も言えない。
始業式、みんな制服のなか一人だけ目立つジャージ。ひそひそと声がそこら中から聞こえる。
聞こえていないわけがないのに、彼女は気にしていないのかまっすぐに檀上を見つめている。
なぜかその姿が目に焼き付いて離れなかった。
雨は一日中降り続いた。
放課後、部活に向かおうと渡り廊下を歩いていると、そこから見えるグラウンドではいた。
両手を広げてくるりくるくる。
顔は見えないものの楽しそうなのは伝わってくる。
風邪ひくんじゃないかななんて心配してしまう。
「ほら、あの子だよ」
「ああ。あいつがとかいう子か」
「だから言ったじゃん、頭おかしいって」
「キチガイだわ、ほんと」
俺の横を通り過ぎる女子生徒二人。
くすくすと笑う声がざわざわと胸をくすぐる。
「……部活いこ」
少しだけイラつく感情を無視して俺は部活に向かった。