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Umbrella【縁下 力】

第1章 Umbrella【1】





中学2年の時、同じクラスに半年ほどだが変わった女の子がいた。



彼女は普通の人と比べると少しだけ変わっていた。
どう変わっていたか。
例えば、パチンコ屋の鏡張りの柱の前でダンスのソロライブを公演したり。
例えば、何もない空間を見つめ彼女にだけ見えている何かを鷲掴みして頬張って食べたり。
全部人から聞いた話だけど。
でもその中でも俺の中で印象に残っているのは、雨の日は傘を差さないこと。
小雨だろうと大雨だろうと、彼女は傘を差さずくるりくるくる両手を広げて踊っている。

初めてそれを見たのは、2年に進級して間もない4月のこと。
始業式の日、しとしとと雨が降っていた。
大きめのビニール傘を差して玄関へ向かう途中、グラウンドをふと見た。

くるりくるくる。
両手を広げて、楽しそうに踊っている女の子がそこにいた。
びしょ濡れになる制服なんて気にも留めず、その子はひたすら回り続けていた。

俺はその時何も見なかったことにしてスルーをしたのだ。
関わるのがめんどくさいと思ったから。
そもそも雨の中傘も差さないで回り続けている人間に誰が話かけようと思うのか。
そう思う人間は、きっと優しい人間か面白半分の人間のどちらかだ。

自分の教室へ行き、自分の席に着く。
朝のHRが始まるまであと20分もあるな。
何をするわけでもなく頬杖をついて窓の外を眺める。
雨はやむことなく降り続ける。
ガヤガヤとクラスの人たちの声をBGMにしていると、その声がシンと静まりかえった。
どうしたのかと思い顔を上げると、クラスの目は一点に集中していた。
教室の扉、そこに先ほど雨の中で踊っていた女の子が立っていた。

びしょ濡れになった制服。
頭から滴る雫。

その異様な光景に誰も何も言えない。
彼女は自分の席に鞄を置くと、その中から一枚のタオルを出して頭を拭きはじめる。
その次に腕、足と順番に拭いていく。
拭き終わったらタオルは鞄の中へしまい込み、代わりにジャージを取り出して着替えはじめた。

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