第3章 Umbrella【3】
その笑顔がどこか寂しそうに見えて、胸がぎゅうっとなった。
いじめにあっていたときによくみせた笑顔。
許されたと願う笑顔。
どうして大丈夫だと思った。
中学の時もそうだ。
こいつはいつも笑っていた。
だけど、あの日泣いたじゃないか。
いじめに耐えられなくて、静かに泣いたじゃないか。
俺と一緒にいれば大丈夫だと勘違いしていた。
そんな顔をさせたくて音駒高校に誘ったわけじゃない。
ぎりっと奥歯を噛みしめる。
なにか嫌なことをされたら言えって何度も言っている。
だけどこいつは一度も言ってこなかった。
全部自分が悪いと、全部自分のせいだと決めて心の内にため込んでいる。
俺らに迷惑をかけないために。
迷惑、かけてもいいのに。
「、また明日な」
「うん、また明日」
だけど俺には何もできない。
24時間365日ずっと一緒にいられるわけじゃない。
家にいるとき、あいつはどんなことを考えているんだろう。
傘をさして、水たまりを踏んで帰るその後ろ姿を眺めていた。
そんな俺を見ていた研磨が静かに声をかける。
「そんなに心配ならもう告白しちゃえばいいのに」
「なっ……!!告白って……」
「好きなんでしょ、のこと。みんな知ってる」
「み、みんなって……?」
「虎とか夜久くんとか」
「まじか」
自分の気持ちを隠していたつもりだけど、バレていたなんて。
動揺を隠せなかったけど、大きく深呼吸をする。
「……告白してそれでどうなる?今の状況が変わるわけじゃないし、あいつが俺を選んでくれるなんて保証はないだろ」
「それはクロが決めることだから俺は何も言わないけどうじうじしてるだけならマシかなって思っただけ」
ゲームを操作していた研磨はちらりと俺を見る。
その瞳が本当にめんどくさそうで、何も言えずに俺は傘を握りしめた。