第3章 Umbrella【3】
家に戻って風呂に入って布団に寝転がる。
思い浮かぶのはさっき見たの寂しそうな哀しそうな笑顔。
彼女の笑顔がみたい。
彼女が傷つく姿を見ていたくない。
彼女を護れる存在が自分であればいい。
そんな風に思う、思うだけだ。
研磨の言う通りに告白をしてしまえばいいのかもしれない。
そうすれば多少なりとも意識はしてもらえる。
告白してフラれるのが嫌なんじゃない。
今の関係が壊れるのことが怖いんじゃない。
ただ、俺が気になっているのは「えんのしたくん」という存在。
中学の時、彼女と一緒に帰っていた時に彼女が言った言葉。
『黒尾くんは縁下くんとそっくりね』
えんのしたくんが誰だか知らないけれど、きっとえんのしたくんも彼女の哀しい笑顔を知っている。
じゃなけりゃあんなこと言わない。
誠実で痛みに敏感なえんしたくんが俺の中で引っかかる。
もしかしたらってこともあるじゃないか。
「……いやいや、いまあいつの前にいるのは俺だしえんのしたくんじゃねえし」
中学の時の彼女のことなんてどうしたって知ることはできない。
だけど今の彼女のことならたくさん知ってる。
知らない時間と知らないやつのことを考えて比べて気分が落ちてるなんて俺らしくない。
大切なのは「今」だ。
告白、してみようか。
「あいつ、どんな顔するかな……」
フラれてもいい。
意識してくれりゃそれで。
OKだったらもっといい。
大切にしたい。
静かな雨が降り注ぐ中、俺はゆっくりと瞼を閉じた。