第2章 Umbrella【2】
「」
次の日の昼休み、俺はを誰もいない教室に呼び出した。
俺の横に立って歩く彼女は笑っている。
昨日泣いていたのが嘘のように。
ぴしゃんと教室の扉を閉める。
不思議そうに俺の顔を覗き込む彼女に、俺は息を大きく吸う。
「俺、音駒高校に行くんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「もし、まだ行きたい高校が決まってなかったり悩んでたりしてるなら音駒高校に来ないか?」
昨日の夜ずっと考えていた。
どうしたら彼女のことを救えるのか。
どうしたら彼女のことを護れるのか。
どうしたって1年という差は出てしまう。
俺は今年卒業する。
けど彼女はあと1年いる。
その1年、彼女はいじめに耐えなければならない。
それに、いじめに耐えられず最悪の結果になってしまうかもしれない。
それだけは避けたい。
どうしたら彼女のことを救えるのか。
どうしたら彼女のことを護れるのか。
考えに考え抜いた結果が同じ高校に行くというなんとも小さいことなんだけど、目標さえあれば最悪な結果はないんじゃないかって思ってる。
が音駒高校を選んでくれるのならば。
「……黒尾くんと同じ高校?」
「そうだよ同じ高校。ついでに言えば俺はバレー部に入るから、お前はその部のマネージャーになってほしいとも思ってる」
「……私が音駒高校に入って、バレーボール部のマネージャーやったら、黒尾くんはどう思う?嬉しい?悲しい?」
「嬉しいに決まってんだろ。じゃなきゃこんなこと言わない。だから言ってんだ」
彼女の言葉で少しだけわかったことがある。
彼女は誰かに必要とされたかったのかもしれない。
じゃなきゃ俺に嬉しいとか悲しいとか聞きっこない。
嬉しそうに笑う彼女の顔がそれを物語っている。
「あのね、黒尾くん」
くるりとスカートの裾を揺らして彼女は窓の外を眺める。
外は快晴で雨が降る気配は一切ない。
「私ね、頭がおかしいって言われるの。普通じゃないって。宇宙人みたいだって」
窓の外を眺めつづける。
その言葉はきっと今まで言われ続けてきた悪口なのだろう。
心無い言葉たちが彼女の心を傷つける。