第2章 Umbrella【2】
「ねえ、黒尾くん」
スカートが揺れる。
俺の顔をまっすぐに見る彼女の顔は逆光でよく見えないが、雰囲気でわかる。
悲しい笑顔で彼女は俺に問いかけた。
「"普通"ってなんだろうね。私の普通はみんなにとっては普通じゃないんだって。私は"普通"がわからない」
「……まあ"普通"っていうのは"一般常識"みたいなもんだよ。たとえば、赤信号は止まれ、青信号は進めとか。あとは用を足したら水を流す、とか。そう言った一般常識のことを"普通"っていうんじゃないか」
「……赤信号のときはちゃんと止まってるし青信号のときはちゃんと進んでるよ。トイレ行ったらちゃんと流すし手だって洗う。だけど私は"普通"じゃないんだ」
それはきっとやはりあの雨のせいだろう。
雨の中傘を差さずにいる姿は異様だ。
それがきっと彼女を"普通"とはかけ離れた存在としているのだろう。
でもこれは言ってはいけない。
彼女が傷つく姿は見たくない。
「俺も普通はわからねえ。というか俺も普通じゃないのかもな」
「え、そうなの?」
「だって俺の寝方みんなにおかしいって、普通じゃないって言われるんだぜ」
「どんな寝方してるの?」
「うつ伏せになって枕で両サイドから頭を押し付けて寝てる。その結果がこの髪型と言うわけですよ」
「すごい変わった寝方してるんだね!!」
「そーですよ。俺も変わり者なんです、お前と同じでね」
「そっかあ。私と黒尾くんは"普通"じゃないんだね!」
「そうそう。しかもな"普通"の対義語は"特別"なんだぜ」
「特別かあ!特別って特別な気分になれるね!!」
「当たり前だろ。なんてたって"特別"なんだから」
昼休みが終わる数分間、俺とは笑いあった。
少し彼女が元気になったような気がして、俺の心はぽわぽわと温かい気持に包まれた。
そしてそこで気が付いた。
俺は彼女に恋をしているということに。
だからって何がどう変わるわけでもないが、そのことに気が付いたとき彼女と過ごす時間がとても特別で、この日々を大切にしたいとそう思った。
Umbrella【2】終