第2章 Umbrella【2】
その日を境に俺は、その子をよく見るようになった。
登校時間、下校時間決まって雨の日に。
両手を広げてくるりと回る。
その度にスカートの裾がひらりと揺れた。
学年が違うため学校で彼女に会うことは滅多にない。
しかし一度だけ見かけたことがあるが、登校時間や下校時間で見る顔はそこにはなかった。
雨の中踊る彼女はいつも笑顔で、時折声を出して笑っていた。
しかし校内での彼女はそんな雰囲気は一切なく、下を向いて寂しそうに悲しそうに、空を見上げては雨が降らないかを確認していた。
だからと言って俺が何をするわけでもなく月日は流れ12月が訪れる。
部活は引退して受験勉強に入る。
いつもは研磨と帰るが、引退した今一人で帰るのが当たり前となっていた。
そんな12月のある日のこと。
その日はみぞれが降っていた。
水分を多く含んだ雪は地面に積もるとべちゃべちゃになる。
歩くたびに靴に浸透し冷たい。
べしゃ、べしゃとみぞれの上を歩いていると、いつもの街灯の下に彼女はいた。
東京と言っても12月は冷えるというのに、彼女はコートに何も着ずにみぞれに打たれていた。
流石に俺もそれは見過ごすことができずに、思わず声をかけていた。
「風邪、引くぞ」
急に声をかけたものだから驚いたように彼女は俺を見る。
初めてまともに彼女を顔を見たが、丸い大きな目がさらに大きく見開かれている。
しかしそれも一瞬で、にこりと彼女は笑う。
「大丈夫」
何が大丈夫だと言うのか。
俺は軽く息を吐く。
そして傘を彼女の上に差す。
再び驚いた顔が俺を見る。
「家何処だ。送って行くぞ」
「大丈夫」
「俺が大丈夫じゃないから言ってんの。これで頭拭け」
スポーツバックの中からタオルを取り出す。
いつもの癖で持ってきてしまうタオルがここで役に立つとは。
タオルを手渡すと彼女は少しだけ俺とタオルを交互に見て、そして嬉しそうに笑った。
少し心臓が跳ねた。