第74章 長い夜
櫻井視点
橋本さんが和也の衣服を整えている。
N「翔ちゃん…」
和也が俺を呼ぶ。
「気が付いたか?」
和也の近くに駆け寄り座る。
N「ご、ごめんね…大事なライブなのに…」
ベッドからか弱く手を出すカズ。
(こんな状態でも、ライブの事気にして…)
しっかり握って「大丈夫!」と言う。
和也の目尻から涙がこぼれる。
「大丈夫!大丈夫だよ この先生。メジャーリーグの選手とかのメンテもしてるって言ってたから、明日のライブできるから!」
流れた涙をそっと拭いて、和也の頬を優しく包む。
「今は、眠って…点滴に安定剤入ってるから、眠くなるよ…
ちゃんと起きるまでそばにいるから、安心して…」
N「うん、うん、そばにいてね…」
小さく頷いて目を閉じる和也。
さっきまでの苦痛を訴えていた体から 穏やかで規則的な波動を感じるようになった。
(よかった 落ち着いた…)
和也の頬からゆっくり手を離す。
薬師「櫻井様 私はそのような事をしたことないのですが」
申し訳ない顔して立っている薬師殿
「ああ すみません 方便です この子には 優しい嘘を…」
眠ってしまった和也をみて 自分を納得させる。
「その方が 器にも魂にも良い方に進みます」
薬師「わかりました 私の事はよろしくお伝えください」
「ありがとう そうさせて もらいます」
白膠木{櫻井様 再びの事が起る前に コレをお持ちください}
小さなリボンと押し花が圧着された札が手元に飛んできた。
薬師「押し花は白膠木の花でございます
小さな災いは花が吸い浄化いたします
栞の形態にしておりますので、何かに挟んでお使いください」
(おお 良いモノもらった)
椿{さて 用向きは 終はりし 帰ることにしよう}
女性の肩に腰掛けている椿様の姿が消える。
白膠木{それでは 櫻井様 失礼します}
薬師の掌にいた白膠木の姿も消える。
薬師殿と女性が頭を下げる。
「ありがとうございました」
俺も頭を下げる。
橋本さんが扉を開け 女性と薬師殿が出ていく。
「はぁぁぁ ふぅぅ」
ソファに深く座り、目頭を摘まむ。
橋本「お疲れさまでした」
「はい 疲れました」
橋本「結界も兼ねて香芝(こうしば)を炊きます」
「よろしくです」
線香のような香りがしはじめた。