第39章 器に休息を 花と共に
櫻井視点
静かに、智くんの部屋の扉を閉め、廊下を歩く。
(智くん…)
腕をそっと触る。
さっき触った 髪の毛の感触を思い出す。
「あーーーーーーー…………」
声帯を震わさないように、声を出す。
(すぐ、そっちに行くって言ったけど…ちょっと、一人で考えてから行くよ)
自分の部屋に戻って真っ直ぐ、明日の準備をする為に荷物に向かう。
準備と言っても、着替えとか細々した小物類を鞄にいれるくらいだから、すぐ終わる。
キッチンの冷蔵庫から水を出して、一口飲む。
「ふぅ…」
ストンとベッドに腰っ掛ける。
テーブルに今回の嵐ロゴのメッセージカードがある。
ハワイ15年目のアニバーサリーイベント。
(デビューして15年かぁ……)
焦点を取らず、ボーっとしてると{王子}っと耳元で声がした。
声の方に顔を向けると、青い花の帽子をかぶった精霊がフワフワ浮いていた。
{言いつけ通り 一人になるまで 話しかけ無かったよ}
フワフワと浮いていた精霊が肩の上に乗った。
「いい子だ」
肩に乗った精霊をそっと触る。
桔梗が俺の頬にすり寄って来る。
(桔梗が心配してくれてる…)
背中を撫ぜて 大丈夫 を伝える。
桔梗 青き花の精霊 俺の守護精霊の壱霊。
俺の我儘に文句を言いながらついて来てくれる可愛い精霊
(自分の立場を知り 周りの期待を知り…
でも、自分が望む 事 じゃなくて…
違う道を…って… あの涙に、惹かれた…)
撫ぜながら、あの頃を思いだす。
{後悔してる?}
桔梗が小さく聞く。
「いいや、逆に、俺でよかったのかなって思うよ」
{貴方はいつになったら、その、心配性が無くなるの?}
「たぶん、なくならないよ。だって、色々心配だもの」
{貴方は、沢山の“花”の加護と守護を受ける人の子。もっと自信を持ちなさい}
「孤高の青き精霊様にそのような“お言葉”をいただくとは…」
恭しく頭を下げる。
{嫌味?}
「いいえぇ」
{もう!!}
膨れる桔梗。
「ははは 俺の我儘に付き合ってくれてありがとう」
笑顔を桔梗に贈る。
{私の言葉を先に言わないでぇ!!
私の力を冠(かん)してくれるの、貴方で良かったと思うわ}