第3章 それぞれ歩幅を…
大野視点
車が止まってスライドドアが開く。
(翔くん…)
S「お疲れ様…です」
白いジャケットをきた翔くんが車に乗り込んできた。
(あ…)
入ってきた翔くんを見て、直感した。
S「あ!」
翔くんがこっちを向く。
(ちがう…)
S「画伯!調子はどうですか?」
笑顔の翔くん。
(翔ちゃん…も…そう思ってるかぁ…)
「……うん、まーなんとか…」
(しか言えないよ…それに…)
S「二回目の個展!楽しみしてます。頑張ってくださいね」
カッコよく決めてくれた翔くん。
(不自然なんだよ
その笑顔はおいらに くれたの?
それとも『嵐の大野智』に向いているの?)
せっかくのキメ顔を素直に見えない。
S「さて、次はドールの写真撮影だね?」
翔くんが淡々と仕事の話をし始めた。
(仕事のはなし… そうだ…
今から…仕事なんだ…
でも…
そう…そうじゃないんだ…
な…なんで、おいらと…こんなに…)
言葉にならない感情が口から溢れそうになる。
シートベルトが無意識の体の動きを制する。
S「そう…ドールの人や観光客のお客さんにご迷惑かけたらいけないな」
段取りを確認してる翔くん。
(ずっと、翔くんの声…聞きたかった…
聞こえる。見える。
でも…
普通に仕事している翔くんの顔ならいい。
今は…違う。
何が違うのか、わかんないけど
こんな翔くん…おいらの翔ちゃんじゃない)
見たくない、聞きたくないと思って強く目をつぶって体を小さく丸めた。
翔専属「大野さん時差ボケですか?水ならありますよ…」
翔くんの新しい専属マネがカバンから水を出してくれた。
「うーん……」
(あんまり飲みたくもないけど)
すぐ、近くにいるメンバーが見ているから
「のむ…」といってとりあえず貰った。
受け取ったペットボトルの重みが感じられない。