第16章 キミがいるから…僕も…
吉桜くんがずっと俺の手を離さない。
(握手っていつまで、やってるもんなんだ?)
せっかくの握手を無理に「離せ」とは言えない。
いつか離してくれると思って待っていたけど、離さない吉桜くんの握手…
むしろ、ドンドン強く握ってきた。
(ちょっと痛い……この子…握力あるなぁ…)
吉桜「大野さん。
僕は、あなたをなんとお呼びしたらいいですか?」
握手をしたまま吉桜くんが質問してきた。
「え?呼び方?」
吉桜「はい…」
(意味があるのか?)
「好きに呼んでいいよ。さんでも君でも、呼びやすいので。
あ…でも…(いきなり)下の名前はねぇ…」
最後の方の言葉に困って笑ってごまかした。
(下の名前は特定の人だけ呼んでほしいな…なんて言えないよね)
吉桜「じゃ『大野さん』にします…」
握手をしたまま廊下で話をしている男二人。
(別に変じゃないと思うけど、そろそろ…離してほしい…)
S「おまたせ!!」
部屋から翔くんが出てきた。
と、同時に吉桜くんが手を離した。
(ふぅー、やっと離してくれた…)
吉桜「明日の朝お持ちします。今日はごゆっくりお休みください」
100点の笑顔を残して吉桜くんが去っていた。
S「智くん?手どうしたの?」
翔くんが俺の手を指さす。
「ん、さっきね。吉桜くんと握手したんだ」
掌をヒラヒラ振る。
「あの子握力あるね!途中から手が痛くなりそうだった…」
少しニアンスを変えて翔ちゃんに伝える。
(握手になれてないみたいで…なんか嫌だな…)
S「変な事言わなかった?」
翔くんがさっきまで、マネと握手していた手をそっと包み込む。
「俺のダンス大好きって言ってくれた」
(見つめられたは言わない)
S「だけ?」
ジッと俺の目を離さない。
「うん。握手と、なんて呼んでいいかって聞かれたから、好きに呼んでって…」
S「吉桜は、なんて呼ぶって?」
ゆっくり次の質問を言う翔ちゃん。
「普通に『大野さん』って呼ぶって…なにか問題かな?」
(しちゃいけない事したの?そんなに、翔くんにガン見されると、不安になるよ)
S「ううん。問題ない♡
さー。
雅紀の部屋に言って晩御飯とビールで乾杯しよう」
翔くんは包み込んだおいらの手をちょっと摩って離してくれた。