第16章 キミがいるから…僕も…
櫻井視点
『…やっと…』
不意に誰かの気配が近づく。
「なに?」
声が聞こえた方に返事をしながら向く。
振り向いた先には人はいない。
O「どうしたの?」
智くんが首を傾げて聞く。
「あ!
(しまった!!『声』を出しちゃった!!)
ううん。なんでもない!」
手をブンブンふってごまかす。
智くんはふっと小さく笑うと、スタスタ鞄に向かっていく。
(誤魔化せたかな?)
智くんの背中を見る。
そして、声のした方や回りを確認する。
(嫌な感じはしなかったけど…
今の気配は‘人’の気配だった)
一瞬〝精霊〟を呼ぼうかと考えたけど、俺が桔梗を呼んだら、智くんが警戒モードになる。
(それは、避けたい)
再び智くんを確認すると着替えた服を持ったまま、鞄を見下ろして考え込んでいた。
「智くん?大丈夫?」
心配だから、顔が見える角度で覗き込む。
智くんと目が合うと「ん?何が?」と言ってほほ笑む。
(『ちょっと考えてました』って顔しいるよ智くん…)
「いや…動かなくなったから…のぼせたのかなって…」
(って事にしておくよ…
本心はね…「なに考えてるの?」って聞きたいよ…
でもね…怖いから
あの日みたいに、問い詰めないよ)
O「シャワー位でのぼせないよ…もう。翔ちゃんは心配性だね」
少し怒ったような顔して笑う智くんは、その勢いそのまま鞄を開けて、さっきまで着ていた服を突っ込んだ。
「あ!もうまた、洗濯しないで鞄に戻す!」
あわてて智くんの腕を掴む。
O「いいじゃん。
少ないから洗えないし…あちこち置いてると、わかんなくなるし」
口を尖らして、ブツブツ言う智くん。
(それ俺も思った…)
「じゃ?一緒に洗う?」
O「いいの?」
ちょっと嬉しそうな顔をした。
「いいよ。俺も洗濯ちょっと躊躇してて…」
(こちらこそご一緒させてください♪)
O「じゃ。一緒にお願いする」
鞄から着ていた服を出している俺に渡す智くん。
「了解」
ポケットから携帯を出して吉桜に電話をする。
吉桜がワンコールも鳴らずに「はい!」と出た。
「あ!(早!)洗濯取りに来て!」
吉桜が「はい!」と耳をキンッと来る位の勢いで返事して切られた。
(これは、これで問題だな…)