第16章 キミがいるから…僕も…
大野視点
「綺麗な夜景だなぁ」
一人ホテルのベランダからハワイ独特のオレンジ色の街灯が道や芝生を照らしているのが見えた。
「オイラ… 今、ハワイにいるんだぁ」
この色はここでしか、感じない。
BLASTのリハの高揚感もあったから、外の風が気持ちよかった。
{こんばんわ}
誰もいないはずのベランダで声をかけられた。
ビックリしたけど、すぐキミだとわかった。
「やぁ、ひさしぶり…」
声の方に返事をする。
姿は見えないキミが笑ってる気がする。
{ふふ。アナタは変わらないね}
温かく優しい声は、そう言って近付いてくる。
「そうかな?結構変わったよ。色々あったから…」
体や髪を触ってみせる。
{そうですね
確かに色々ありましたね…でも、アナタの輝きは変わらないよ}
別の声も聞こえる。
「ありがとう。
いつも、傍にいるのは感じてたけど…
こうやって話せるのは、ココだけなんだね…」
{ここは、聖地だからね。僕たちも元気になるんだよ}
ベランダの柵の外から声がする。
「うれしいなぁ。
キミたちと同じ言葉を『嵐のファン』の子たちも
『ハワイは嵐の聖地だ』って言ってたよ」
ふふっと笑って、さっきまでいたBLASTの会場の方を見る。
「さっきマデ、アソコニいたンダヨ」
腕を大きくあげて、身を乗り出したとたん、ベランダに勢いよく風が吹いてきた。
その風はハワイに似つかない冷たい風だった。
(寒い……)
肩を少し触る。
{{お前は『嵐』か?
お前が『嵐』なのか?}}
とても、暗く冷たい声が耳の傍で言う。
戸惑いと憤りで目の前が見えなくなった時、感じた…黒い感情を思い出す。
冷たい声の質問に答える言葉が出てこない。
「わからない」
空を見上げて、口から零れ落ちた。
(おれは『嵐』なのか?)
『嵐のリーダー大野智』を演じているのかもしれない。
最近のゴタゴタで、色々頭の中 整理できない。
考えてみたら辞めるはずだった、事務所。
訳わからないまま『デビュー』だって言われ、
先輩の冗談みたいな発言で『リーダー』って呼ばれ、
とっても綺麗な輝きを消したくなくて、逃げ出せなくて、辞められなかった…
『嵐』に相応しい人になろうって頑張った…