第10章 ボクゥ、キミ苦手やねん。/弱虫ペダル、御堂筋翔
今日も山の土手っぷちで、何やら削ったりほじったりしてる姿を見かけた。
ボクがいっぺん自転車で轢いた、隣のクラスの地学部のコォや。
いっぺん轢いてしもたせいで、あのコォ見かけるとギクッとなる。避けて通りたいもんやから、近くにいるとすぐ見つけるようにもなった。その度ィギクッとなる。鬱陶しぃてかなん。
「おおミドースジくん!今日もよく走ってますね!」
あかん。気付かれた。
あっちもいっぺん轢かれたせいか、ボクに気ィ付くのんが早なってきとる気がする。最悪や。
「……」
話しかけたったらあかん言うたのに、このコはホンマにアホやなぁ。
無視して通り過ぎたったら、能天気な声が背中にぶつけられた。
「頑張って下さいねー」
誰に何を言うとんのや。キミなんかにそんなん言われんでもボクはいっつも全力で走っとるわ。
振り切りたくて、ペダルをぐんと踏み抜く。加速が加わったタイヤが何かに乗り上げた。
あ。あかん。落石や。
車体が傾いでハンドルの制御が上滑る。
「あーッ」
間抜けた声が聞こえた。
やかましコやな!イラッと来るわ!キミのせいやで!声かけんなて言うたろが、アホゥ!
立て直そうとペダルを踏む足に力を入れたら、膝が山道の荒れたアスファルトを擦った。
「ちいィ!」
目をかっ開いた視界いっぱいにガードレールが迫った。低い姿勢から突っ込んだらモロに激突してまう。何とか少し車体が持ち上がったところで、前輪がガードレールにぶちあたって、後輪が浮く。
「あーッ!!」
またこの声ェ!やかましわ!キモッ!
ボクは前のめりに投げ出されて、ガードレールの向こうに茂った藪に突っ込んだ。熊笹にあちこち引っ掻かれながら落ちた体が青臭い下生えへ叩きつけられる。肩に結構な痛みが走った。
アスファルトを走るパタパタいう足音に続いて、藪を漕ぐガサガサいう音が近付いて来る。
ぅうわぁ、何で来るん?止めや!
キミと拘わんのは厭やてちゃんと言うたやんか、ボクゥ!
「ミドースジくん!?」
「来るなァ!キミやかましわ!声かけたらあかん言うたやろ!」
「…?何でいきなり怒ってます?錯乱状態ですか?」
「錯乱なんかするか、アホゥ!」
「声かけてスイマセンね。でもヒジョージタイの際はその限りじゃないでしょう?」