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お日様が照れば雨も降る。

第9章 夕暮れ春風帰り道 /弱虫ペダル、御堂筋翔



「わかっとる」

「キモ」

「発展途上なんですよ。スイマセンね」

「挨拶もなしィ」

「わかりました。そっちがして来てもするもんか」

「そら失礼やで、キミィ」

「ちょっと待て。何だソレ」

「待たんわ。バス来たで」

「おお、良いタイミング。待たずにすみました…いや、いーや!そっちの待ちじゃない!」

「キミとこれ以上無駄話せんとすんで有り難いわぁ」

「ああ、そうですか。無駄に話させてスイマセンでした。ぶつかってごめんなさいませ」

「ホンマや」

「…今のは嫌味というヤツですよ?」

「だから何ィ?はよ乗り。キミィ置いてかれたらボクが迷惑や」

「言われなくても乗ってやるとも」

「そうして。ほなまた明日な」

「わかりましたよ。はい…また…また明日…?」

「また明日ぁ」

「…はい」

「降りるとこ間違えんと帰りや……何笑てんの?」

「笑ってませんよ」

「笑てるよ。キモォ」

バスの乗降口が閉まった。窓が開いて笑顔が覗く。

「また明日ですね?」

「はぁ、また明日ぁ」

窓から突き出た手がひらひら棚引くように振られて、バスが緩やかに発車した。

「またね!」

陽気で能天気な声を残してバスが遠ざかって行く。

「…変なコォやぁ。…キモォ…」

細長い影が自転車に股がって、薄暮の道に長く薄い影を落とした。

風が吹く。
生温かい芽生えの風。

ペダルを踏んで切る風に心地好く嬲られながら、自転車は坂道を勢い良く下って行った。





















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