第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
学校がうるさいとこだっての、知ってた?
俺は今日初めて気付いたヨ。
物思いに耽るのに全ッ然向かないの。知らなかったー。皆さぁ、もうちょっと静かにしようよ?勉強しろとは言わないケドさ、人が落ち込んでんのくらいわかって欲しいなァ。静かに考え事したい人だっているのヨ、ガッコにも。俺自身そんなのぜーんぜん考えたことないけどネ。
誰かが早弁してるらしいいい匂いがする。
だっは、誰だよ!二時限めから飯なンか食ってるおバカさんは!
まだお昼じゃないでしょうよって抗議の気持ちを込めて勢いよく振り向くと、若利クンがコンビニのお握りをかじってた。
あら?若利クン。あそう。じゃなくて、いやいや、若利クンと言えどよくないコトはよくないヨ?
「ちょっとちょっと若利クン。何食べちゃッてンの?お昼はまだダヨ?アナタにしちゃ珍しいモノ食べちゃって急にコンビニ派になっちゃった?」
椅子の背に肘をかけて物申したら、ゴミをまとめたレジ袋が目に飛び込んで来た。
心臓がびょんと跳ねてギュッと縮まる。
桜庭さんとこのコンビニだ。
悲しいんだか嬉しいんだか、痛いんだか気持ちいいんだかわからない胸の感覚に息切れしそうになる。
あだだ。苦しい。
「い…いだだだ。わ、若利クン、ゴミはさっさとゴミ箱に……」
「お前も食べるか」
「いりません。ボクはもう、昨日からずっと腹一杯…」
桜庭さんと食べたご飯がお腹じゃなく胸に詰まってるみたいな気がする。全然お腹が減らないしちっとも眠くならないし、授業が頭に入んないのはいつも通りとしても部活に行く気も萎えちゃってる。
「はあー。ドイツ人になりたい」
机に突っ伏して呟いたら、若利くんがいつも通りの脇目もふりませんみたいな真っ直ぐさでちょっとズレたことを言って来た。
「帰化したいのか?」
「あのねぇ、若利クン。そういうコトじゃないのヨ」
「他にドイツ人になる方法があるのか」
「いや、そうじゃなくてさ。他に声のかけようってモンがあるんじゃない?落ち込んでそうなオトモダチにはさ」
「帰化したくないのか?」
「そう来たか…。ちょっと何て答えていいかわかんないみたいヨ、俺」
「そう言われても俺こそ何と言えばいいかわからん。よくわからんが桜庭さんのことでドイツ人になりたいんだとしたら、それは早計というものだぞ」
「…よくわかってんじゃん」