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お日様が照れば雨も降る。

第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚


「どうしたの?」

「いやややや、どうもしてません、ぜーんぜん、ダイジョブ」

「…そう?具合悪かったら、無理しないですぐ言ってね?付き合わせて悪…」

「いコトありまセン!全然、全く、何ともないし」

「やっぱりズル休み?」

「はい!…え?いや…いやぁ…そんなコト…」

「悪いコねぇ」

フと笑った桜庭さんがもどかしい。
あやさないでよ。

でも、凄く楽しい。

ずっと向かい合ってたかったけど、何時までもずっとご飯食べてる訳にはいかないンだよね。

デザートまでペロッと平らげてお腹いっぱい、幸せそうな桜庭さんとお店を出た。
外は雨。
ブルネンハイム。ブルーム。花。ハイム。家。
ブルネンハイム。

「…花の家…」

楽しかったレストランを顧みて呟いたら、傘を開いた桜庭さんがクフンと笑った。

「私の家」

「え?」

渋柿色の傘の下、桜庭さんの綺麗な顔がブルネンハイムに、それから俺に向く。

「私の名前、花なの」

「ハナさん?」

「そう。桜庭花。父はハンナって呼ぶわ。…母もそう呼んでた」

傘もささずに突っ立つ俺に自分の傘を半ばさしかけて、桜庭さんはブルネンハイムの看板をもの思わしげに見上げている。これはこの人の凄くプライベートな顔だ。少なくてもコンビニじゃ見せてくれない顔。

温い雨と湿ったアスファルトの匂い、重くてあったかい湿度に巻かれて世界に二人きりみたいな気分になる。

「…お父さんとお母さんは貴女をいずれドイツに連れて行く気だったのかな?」

桜庭さんの手から傘を引き取って、俺もブルネンハイムの看板を見上げる。

「何でそう思うの?」

相合い傘の下で桜庭さんが俺を見た。俺は視線を合わせない。桜庭さんの視線を贅沢に独り占めしながら、ちょっと笑う。

「ドイツでも通用しそうな名前じゃない?花さん。ハンナさん」

いい名前だよ。素敵な名前だよ。

花さん。

やっと名前が知れた。

花さん。

…ハンナ…。

「貴女はきっとあっちだとハンナさんって呼ばれるンだろうね」

「さぁ。どうかしら。確かにその方があっちじゃしっくり来るんでしょうけど」

桜庭さんは掠れた笑顔で首を傾げた。

「ハンナだと名前のイミが全然変わっちゃうのよね」

「どういう意味があるの、ハンナ?」

ただの質問。だけど、貴女のもうひとつの名前を呼び捨てて、背筋が痺れる。

ハンナ。
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