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お日様が照れば雨も降る。

第7章 減らず口/干柿鬼鮫


この女は放っておくと、いつまでも本を読み続ける。

俯けた首の後ろに手を当てて肘をつき、煙草を挟んだ指で頁を繰る。眉間には深いシワ。

大概愛用の乳白色の湯呑みが傍らにあって、中身はお茶か一日用のない日ならば酒。
呑んでも酔ったところを見た事がない。

ひとつにまとめて結い上げた髷を見ていると、鷲掴みして揺さぶりたくなる。
実際そうしたくなるだけではすまず、よく鷲掴みしてガクガク振り回している。

黙って見てるとだんだん腹が立って来るんですよねえ。どうした事か。
まあ掴み具合がいいというのもありますが。
大体こんな頭をしているこの人が悪い。もいでくれと言わんばかりの髷ですからね。邪魔くさい。

向かいで鮫肌の手入れをしながら、たまさかじっと眺めても見られている事に気付きもしない。

鈍感というか無頓着というか…

バサバサ無造作に乱れる後れ毛を押さえつけるように掻き上げる時折の仕草が、辛うじて女らしいと言えば言えなくもない色気なし。

しかもその女らしさは鬼鮫の目にしか映らないものかも知れない。

まあこれくらいがいいんでしょう。例え誰かに好かれたところで気付きもしないで相手を振り回すだけでしょうからね、このバカ女は。
そもそもこの人は私のものですから、手を出すのなら相応の覚悟をして貰わねばなりませんしね。

死ぬも生きるも私次第、勝手な真似は許さない。この女の息の根を止めるのは私と決まっている。

「何か良からぬ事を考えてらっしゃいますね?」

本から目も上げずに声をかけて来た女に、鬼鮫は足を組み替えて口角を上げた。

「良からぬ事?さあどうでしょうねえ」

不意に女が本を閉じて煙草を揉み消した。

が、これでこの女が本から離れるとは思ってはいけない。

立ち上がって本棚に向かう女を目で追いながら、鬼鮫は鮫肌に晒を巻き付けてトンと卓に立て掛けた。

「あなたの言うよからぬ事と言うのはどういう事なんでしょうかね」

本を難しい顔で眺め渡す女の後ろに立つ。

華奢な肩は意外に幅が広く、しなやかな背中は飽くまで肉薄く、袷の下に胸の膨らみは皆無、脚衣に包まれた脚は腿と脹脛の太さに大差なく…要は男児の身体だ。

「また生殺与奪が私のものでバカな真似をすると息の根がアイドリングストップとかそういう……ちょっと何ですか、その残念そうな顔は?」

「残念?気持ち寂しいだけですよ」
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