第4章 花菖蒲のようなヒト/ハイキュー、青根高伸
青根は自分が地味な冴えない男だと思っている。
口数が少なくて気の利いた事ひとつ言えないし、感情表現に大事なツールである眉というものがないせいで誤解されがちだし、背こそ高いがそれがバレーという競技以外に生かされた事もないし、ないない尽くしない尽くしのパッとしないヤツ。
そう、それが青根高伸という男なのだ。
少なくても青根は自分をそう思っている。
不平や不満はない。平凡な目立たない毎日が大好きだ。
・・・二口が腹を抱えて海老みたいになって笑っている。茂庭さんは盛大にコケた。鎌先さんと笹谷さんはポカリを噴いたし、小原は物言いたげにこっちを見てる。
皆どうしたんだ?
平凡で目立たない毎日って、そんなにおかしいものだったっけ?あれ?そうだったっけ?
皆がブンブン手を振りだした。
それでいいと思うぞ。青根、日常を愛するその意気や良し。とてもお前らしい考え方だ。
笹谷さんに誉められた。
嬉しい。
言いたい事はよくわかる。わかるんだけどねえ・・・・まあ、いいや。お前はそれでいい。もうずっとそんな感じで行っとこう。な、青根。
茂庭さんに太鼓判を押された。
嬉しい。
青根の目立たない平凡な毎日ねえ。ぶはははは!いやいや、青根・・・だっはっはっはー!俺、お前好きだなー!ハハハハッ!
二口に告白された。
・・・・何かちょっとイヤだ。
・・・告白・・・
・・・告白・・・・・
まだ何か騒いでる二口を眺めて青根はため息をついた。
こんな平凡で詰まらない青根高伸にも、好きな女の子がいる。
いる、と、いうか、今朝出来た。
どんなコなのかもまだよくわからない。
でも、間違いなく好きになってしまった気がする。
今日は一日中そのコの事が頭を離れなくて困った。また会いたくて、どうすればいいかずっと考えてた。
こういうのを、好きっていうんじゃないかと思う。好きっていうんじゃないとしても、特別なコが出来たのは間違いないような気がする。
名前は知ってる。
修学旅行でバックにつけるような名札が、鞄の横で揺れていたから。
太田日与子、何だか荒々しい筆跡がマジックで殴り書きされていた。
同じ市内の女子校の制服を着ていた。鎌先さんが見るたび騒ぐから青根も覚えてしまった。