第2章 南風はどこだろう/ムーミンパパ
「パパ。パーパ。起きてよ、もうとっくに春だよ!」
元気のいい声がして、あったかい毛布がはぎ取られた。
「パパがこんなに起きないなんて珍しいね。もうスナフキンがハーモニカを吹いちゃったよ?ねえ、パパ?」
こりゃムーミンだな。スナフキンがハーモニカを吹いた?いやいや、また夢をみているな?
今度は断固起きないぞ、私は。
「ムーミン?パパは起きた?」
パンの焼けるカリッとした匂いと一緒にママの声が聞こえて来る。
「今日の朝ごはんはミートボールよ。去年のコケモモジャムが沢山あるから、早く食べてしまわなくちゃ。コケモモの季節が来たら、またどっさりつくりますからね。ああ、ワクワクするわねえ」
ママが鼻をひくひくさせて、春の匂いを嗅いでいる気配がする。
今ママは南風に吹かれている訳だな。
ムーミンパパは目を閉じたまま、ニッコリ笑った。
スナフキンに私が見つけた緑の話をしよう。どんなに色んなものを見た彼も、二目と同じ色は見られないだろう?きっと面白がって聞いてくれるぞ。
それから、ヘムレンさんのところへ行ってタンポポ茶にママのクッキーで長話をしなくちゃ。あれは夢だったのかな?あのニシン、また食べずにはいられないぞ。
ムーミンにはロゼットの事を教えてやらなくちゃな。夏のオニタビラコを一緒に見に行こう。
それから、・・・・・それから、また頭を掻きむしって、物語を書こう。
どこからくるかも知れない南風に、いつ会ってもいいように、準備をしておかなくちゃいけない。
あーあ・・・・・・・。ワクワクするのも、なかなか厄介な事だよ。特に立派なトロールの紳士としてはね。忙しいったらありゃしない。
この調子でいくと、次の冬は、ぐっすりだろうな、きっと。