第2章 南風はどこだろう/ムーミンパパ
「僕は色んなものを見たいし、知りたいんだ」
緑色の帽子は芽吹きの色、春から夏を伸び伸びと謳歌する命の色だと思っていたが。
立ち枯れを選んだ強い色。冬を越えて春を待つ辛抱の色。
考えてみるとこれも素敵に立派な緑だ。
ふむ。実に面白い。
「しかし君は冬を避けて行ってしまうよね?冬は見なくてもいいし、知らなくてもいいのかな?」
味のあるこの帽子の色は、全部に当てはまりそうだな。被り主がそう見せているのかも知れない。
「一年は春から始まるでしょう?僕はまず春を知る事から始めたんです」
本当は我々の事など透けて見えているんじゃないかと思う深い大きな目で、帽子の主はちょっと笑った。
「今は南風を探しているところです」
「夏?」
「夏かも知れないし、春の終わりかも知れない。ねえパパ、南風は何処にいるんでしょうね」
私も若いときは一端の冒険家だった。
・・・何だね?笑っちゃいけない。
トロールはそもそも勇敢で探求心に溢れた好奇心旺盛な一族だ。私が冒険家だったのも言ってみれば当然の事だね。
その私が思うに、緑は希望の色だ。
どんな時にも必ず褪せない希望の色。
彼の帽子が緑色なのは納得だし、息子が彼を好きでたまらないのもよくわかる。私だってもう少し若ければ、彼と一緒に行きたいものな。
南風の居所にはどんな緑が似合うだろう。
ふむ。それにしても今年の冬は長い。寝たふりをしながら春を待つのは辛いものだ。
ママ、ちょっと起きてくれ。お腹が減って堪らない。
サクランボとキノコのスープが呑みたいな。カボチャのパイでもいい。魚のミルク煮なんか答えられないね。肉団子のシチューにたっぷり香草をきかせたヤツをちょっと酸っぱいパンと食べると最高なんだ。リンゴ酒を開けたくなるよ!
「はあ」
ムーミンパパは起き上がって、諦めの溜め息を吐いた。
「うぅッ、寒いッ」
注意深そうな耳の先から栄えある尻尾の先にまでヒリリリッと震えが走る。
「全く何て事だ」
床に短い足をおろして温かい毛布をズルズルと体に巻き付けると、パパはキョロキョロ辺りを見回した。
「・・・今何時くらいだろう?」
陽が射し込まないせいで周りはぼんやり薄暗い。
チラッと目を走らせると、隣のベットのムーミンママは深い寝息をたててぐっすり寝入っている。