第11章 一双/呪術廻戦、漏瑚
幸せを祝う気持ちを知らなければ呪いはない。
呪いがなければ祝福もない。
良いものと悪いものは一双、ひと揃え。互いがなければその存在はないも同然。
不可思議だが人はそういう感じ方をする生き物だ。
そしてあなたたちはその不可思議な理の上に成り立っている。
こんな戯言を吐いた女がいた。
ふざけるな。
目的のために裏表ない道を一心に行くのが我らが呪い、それがそんな形も取れない曖昧で仕様もないものと対にされてたら、裏表ない矜持が木っ端微塵だ。大体我らが人の理の上に成り立ってるなんてよくも抜かした。ぶっ殺す。絶対焼き殺す。
ほざいた女は勿論死んだ。が、残念ながら儂が殺した訳ではない。
けれどあの女、儂が殺してやるべきだったのではないかと今も思う。
この手の心残りは嫌なものだ。下らなくて些細な引っかかりはちくちく不愉快な屑傷のようで苛立たしい。腸が千切れそうに腹が立つとか、ばらばらにしてやりたいくらい憎いとか、そういう解り易いものならもっと思い切った遣り様があるのだが。
遺族を見つけ出して根絶やしにするとか。知己を残らずいたぶり殺すとか。恨むなら奴を恨むのだなと死に逝く連中に吹き込んで、親しく慈しんだ者に恨まれる救いのなさを与えてやる。もし其処に呪いが生じたらば、さぞかし胸が空くだろう。
ところがそこまでしてやるような相手でもないから、半端に腹が煮えて気が悪い。
なんと言ったかあの女。名前は覚えていない。
洞穴でじめじめ光る光苔か、踏みつけられた下生えから覗くひしゃげた犬陰囊か、日陰の雑草に紛れた臭い屁屎葛みたいな女だった。
女は病んでいた。病に殺された。
儂はその最期を看取って様を見ろと言ってやったが、女は笑うだけだった。
何故あのときこの手で焼き殺してやらなかったのか、今思い返しても忌々しい。
忌々しいが、焼き殺しても笑いそうな気がして業腹だった。笑いながら死ぬなんて、それこそ祝されて死んだようで胸糞悪い。
女が笑いながら死んでいくのを見るのは真っ平だったが結局は、他の誰でもないこの儂が笑わせてしまった。どんなつもりで笑って逝ったか知らないが、本当に腹の立つ女だ。
儂は女を焼かなかったし、女はただ病に蝕まれて凡百の寿命を面白くもなく全うし、あっさり荼毘に付された。