第2章 悲劇
見ると、太宰がこれ見よがしにあくびしていた。
そして、芥川から私に視線をうつし、颯爽と近づいてきた。
太宰がゆっくりと私の顔を覗き込む。
「ふーん、此れならいいか」
太宰は芥川に向き直る。
「なんなら、この子も一緒でいいよ」
そして、私の手に触れようとする…
瞬間、芥川が跳躍した。
芥川の外套が、鋭い刃物へと変貌し、太宰の喉を狙う。
それは、今まで多くの者を死へといざなった芥川のやり方だった。
刃が太宰の喉に刺さる。
ーーいや、刺さっていない?
刃は太宰の喉にふれると同時に、完全に霧消していた。
「うん、悪くないね」
全く動かないまま、太宰が静かに言った。太宰の表情に変化はなく、 微笑を讃えたまま芥川を眺める。
すべて、予測されていたのだ。
自分が飛びかかるであろうこと。
殺そうとすること。
心の奥底まで見透かすような視線に、思わずあとずさる。圧倒される。…あまりにも危険すぎる。
僕は横目でくるみを確認した。
自分と同じく、唖然とした表情で太宰を凝視していた。
「勧誘を受けなくとも恨みはしない。」
再び太宰が二人の周りを歩き出す。
「その場合も、君たちの生活を保障してあげよう。そして、二度と私は姿を現さないと誓おう。
だが、君たちに覚悟があるのならば、求めるものを与えるよ?私は、君たちを甘やかすつもりはない。最下層の今よりも、ずっと過酷な試練が待っているはずだ。だが、その覚悟があるのならーー
求めるものはあるかい?」
太宰が問うた。
全てを見通す目が芥川とくるみに注がれる。
この人は、知っている。自分がどう思っているか、次に何を言うのか、その全てを。
求めるもの?
二人は考える。
〈私は、ずっと幸せだった〉
〔僕は、ずっと諦めていた〕
〈もう一度、あの日々に戻れたら…〉
〔あのどん底では、得られることはない…〕
〈心から信じられる仲間がいないと…〉
〔今の僕では、そのための力すらない〕
〈〔今の自分には生きる意味が…ない!〕〉
芥川がそっと私を見やる。
なんとも複雑な表情で、私を真っ直ぐに見た。
でも、私にはわかる。
ずっと一緒だったんだよ?
私は力強く頷いた。