第1章 今度は何事!?
ああもう何なんだ!最初は怒りもしたが、堂々巡りの押し問答にだんだん怒る気も失せて来るというもの。終いには検非違使は私たちが連れてきたとかいう話になっているらしい。
「…めんどくさい」
強めに発した声に、部屋の中が静まり帰る。
「また出た、叶弥のそのめんどくさい。いい加減なんとかしなよ。そんなんだから事態がややこしくなるんでしょ?」
正論なんだろうが、思考停止した私の頭にはカノンの言うことは馬耳東風だ。完全に目が座った私を見兼ねたかのように、加州清光が助け舟を出す。
「あー、俺、一応刀剣男士なんだけどね。俺がここにいて彼女を主って言ってるので、少なくとも検非違使は絡んでないって証明にならないかなぁ?」
「…まあ、彼のいうことも一理ある。大将、どうする?」
外を向き沈黙を保ったままだった主がゆらりと動く。
振り返ったその姿は、非常に涼やかな印象の若い男だ。紺のタートルネックの薄手の長袖シャツにジーンズという、ここに似つかわしくない軽装で飾り気がない。短い霞色の髪を搔き上げながら、琥珀色の瞳で私をじぃと見つめる。一瞬、不覚にもその瞳に捕らわれて緊張してしまったのは内緒の話だ。
んーと頬を掻きながら天井を見上げて思案顔ののち、思いついたかのようにポンと手を打つ。
「仕方が無いね。こんな異常事態、彼らが言うことが本当ならかつてない話だし、そうなら処遇を私たちでは決められないからな。定期連絡まで間も開くことだし、それまではここで雑用くらいしてもらおうよ」
そういいながらウインクを飛ばす主とやらに若干ゲンナリしていると、私を小突いた少年が不服そうに眉を寄せた。ため息をつくと、私を蔑むように見下ろし「命拾いしたな」と嫌味ったらしく言い放った。
「…どーも」
肩を竦め片眉を上げてわざとらしくそう返すと、彼はチッと舌を鳴らして目を逸らした。
その場で縄を解かれた後、大部屋を後にする際に見かけた幾人かの男達と視線を交わしたが、やっぱり面倒なことになりそうだなとしか思えなかった。
敷居を跨ぐ時にチラと部屋を見返すと、私を助けた青い優男と目が合った。ほんの一瞬だったのだが、その瞳は優しく笑いかけているように見えたから、少しだけ唇を動かして返した。助けてくれてありがとうと。
果たして伝わったかは分からないのだけれど。