第1章 今度は何事!?
「三日月宗近、だっけ?悪いね、後ろは任せたよ」
「…あいわかった」
三日月宗近は短くそう答えると、次の瞬間には検非違使の身体を押しやるように重い一撃を放つ。加州清光も負けじと押しやると、私のいる場所に余裕が生まれた。
(確かに私は足でまといだからな。引き離してる間に移動って事か)
手にしたままの鞘を握りしめ、対峙し合う彼らの邪魔にならぬように駆け出す。そのまま相棒の元へ駆け寄っていく間、三日月宗近から感じた妙な間に首を捻っていた。
(加州清光と三日月宗近は、知り合いなのか?)
…やめだやめ、分からないことに首は突っ込まないと決めたんだ。またどうせ世界を渡る時が来る。出来ればそれまで平和に過ごしたい。今までろくでもない事ばかり起きてきたんだから、これ以上の心労は避けたいんだ。
疑念を振り切るように頭を振ると、カノンの元に駆け寄る幾人かの姿を確認した。三日月宗近の仲間だろう、そう思い足を早めたのだった。
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だだっ広い日本庭園が美しい。
カコンと獅子脅しが響くそこには、鯉が優雅に泳ぐ大きな池がある。時折そよぐ風が頬に気持ちが良くて、つい目を細め━
「寝るな」
「あだっ!」
現実逃避に意識を飛ばしかけた私の頭を、かなり強く小突かれて漸く現実に意識を引き戻された。痛い、拳で思い切りやられたのか、ジンジンと響いて涙目になりそうになる。
「…お前、この状況わかっているのか?」
「分かってる、ものすごく分かってる。分かってるから現実逃避しようとしてるんじゃないか」
「馬鹿かお前」
隣を見上げると私を小突いた基殴った張本人が、冷たく視線を投げてきた。
ああもう、なんで毎回私はこうなるんだ。以前の世界でも似たような目に合ったし、というか理不尽だ、私は悪くないぞ断じて!
「だからさっきも説明した。私は異世界から来ていきなりあの吉備団子に襲われて、そこの青い優男に助けられたってのが経緯だよ。気がついたらあそこにいたんだから」
「僕も右に同じく。他に言いようがないしね」
「そーそ、俺もずっと見てたから保証するよ」
真ん中に私、右にカノン左に加州清光と並び、後ろ手に縛られて正座させられている。
あれから助かったはいいが、何故か怪しまれてこの屋敷━本丸━の主の前に引き出され、罪人のような扱いを受けている真っ最中なのだ。