第5章 力の使い所と彼らとの距離
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香しい神気を内包させた娘一人。
俺たちより神格が上であろう、美しい銀糸の髪を揺らす男が一人。
最初は、最早退屈な日常になってしまった敵の討伐から気取られたに過ぎない、些細な興味で助けただけだった。
幾日、十数日経った今、少年にしか見えぬ娘を果たしてどれだけの刀剣男子が女人として認知しているのだろうか。……いや、そんなことはどうでもいい。
主が無くした刀剣男子を従え、この本丸に転がり込んだ彼らの目的は露として知れぬまま、しかし主は二人を快く迎え入れたのだ。
主はああ見えて頭が切れる。何も考え無しに情に流されるとも思えない。
だから、黙って見守ることにしたのだ。
『あの男、何やらニオイますな、野性の感ゆえ』なぞと楽しそうに成り行きを見ていた子狐を制し。
(危害をこちらへ加えぬ限りは手を出してはならぬと、皆を説得しはしたが)
危惧した事はなにも起こらず、寧ろ二人と仲良くしだす者が数名出てくる始末だ。
しかし、気になるのはやはりあの白い男。
何より大事にしているように見える娘を、時折畏怖する様な眼差しを向けていることに気づいた。
何故、とも問いただせずにいたが、珍しく独りで佇む白い男に疑念を込めた視線を向けずにはいられなかったのだ。
「おぬしの片割れを置いて、白い男は何を愁いておるのだろうな。いや、まこと絵になる」
「……今晩は三日月宗近。いい月夜だね、君が招いたのかな?」
ざぁ、と髪を弄ぶように吹き荒れる風に構いもせず、暫く俺たちは見つめ合ったまま動かなかった。互いを探るように息を潜め、金の瞳の奥をじっと見据える。
やがて最初に目を伏せたのは、カノンだった。
「……全く。君は付喪神なのに勘が良くて困るよ。ほんの少しだけなら話そうか」
「なら、問おう。何故おぬしはあの娘を恐れる。互いを“魂の片割れ”と言いながら、カノン、おぬしが向ける目には畏怖の念が宿っているように感じたんだがな」
「少し、昔話をしよう。すべてに見捨てられた、可哀想な赤子の話しさ」
橋に凭れ掛かりながら口を開いたカノンは、どこか泣きそうだなと、そんな事を感じながら。
月を背後に頂いた彼は文字通り、神々しく映った。
━━二人は一つだ━━
呪いのような語り始めだった。