第1章 今度は何事!?
「あ、ねぇ、かしゅー!もう一人敵が来てるんだけど!」
「えっ、マジで!?っと、流石に、二対一ってのは…よっと!」
戦いながら答えると、強めに刃を押し返して間合いを取ったようだ。ジリジリと牽制し合う格好になる。
「…はは、折角顕現したってのに、流石にまずいかもなぁ…」
余裕だった顔に焦りが浮かんでいる。私は彼の背中にピタリと背を合わせると、目前に迫る敵を迎え撃つように彼の鞘を構えた。
「なにやらお困りのようだな。助太刀いたそう」
ス…と、青い袖が庇うように私と敵の間に入る。戦場に似つかわしくない、ゆったりとした声がやけに頭に響いた。
「…だ、れ」
「俺か?俺は三日月宗近。打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。よろしくたのむぞ」
振り返った三日月宗近と名乗る男は、はははと笑いながら目を細めた。…味方か?よくわからないが、助太刀というのだからそうなんだろう。その笑顔からは考えている事は読み取れないが、少なくとも検非違使のような禍々しさは感じられなかった。
「して、あそこにいるのは連れか?検非違使を引き連れて走り回っていたのはそなた達だろう?…なんと、まだいたか」
語尾がやや低くなり、カノンのいる方を睨んでいる。
まだ、いたのか。私たちを追っていた影は二つではなかったのか。
「カノン!逃げろ!何もできない役立たずな神様はひたすら逃げろ!そんなんでも私の相棒だからな!」
「その言い方酷いよね!?なんかこっちに来てから僕の扱い悪くなってない!?」
「気のせいだ!」
三日月宗近は私とカノンのやりとりに一瞬目を見開いたが、直ぐに表情を戻して目の前の検非違使を見据える。
私より高い彼の背中を見上げて、僅かに匂う香のような匂いにスンと鼻を鳴らす。この優男といい、加州清光という少年といい、運がいいのか悪いのか。この世界の事はよくわからないが、またゴタゴタに巻き込まれるのだろうとため息をついた。
「そなたの連れは他の者が直ぐに助けに入るだろう。なに、心配には及ばんさ。そこでゆるりと高みの見物を決め込むといい」
私のため息を不安からだと思ったのか、目の前の青い優男は視線だけで笑った。
私は何も言わぬままそこに立ち尽くし、文字通り高みの見物をすることにしたのだった。