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アサギリソウ

第5章 力の使い所と彼らとの距離


「というかさ、蒼司が鍛刀すればいいじゃないか。増やす気がない云々言ってたのに、戦力拡充とか。私がやる必要ないだろ」
「…断れる立場にあると思ってるのかアンタは?」

まーた脅しですか。そう内心思いながらも口には出さずに肩だけ竦めて見せる。
加州清光が薬研藤四郎の視線を遮るように叶弥の前に来ると、嗜めるようにポンポンと手を叩いてきた。

「しょうがないなぁ…分かったよ。そのかわり出来なくても文句言うなよ?」
「その時は潔く諦めるよ。あくまでもこれは私たちの予測に過ぎないしね。出来なかったからといって、君たちを見捨てたりするつもりは無いし」
「そいつは安心だな」

かくして、叶弥の力の程を見極める為の鍛刀が行われる手筈となったのだった。
蒼司の密かな思惑を決して誰にも悟らせることは無いまま、その時は刻一刻と迫ってゆく。




(なぜ、加州清光が叶弥の元に来たのか。偶然かもしれない。しかし)

蒼司の脳裏に過ぎるのは、今は消えてしまった、かつての刀剣男士たちの姿だ。その中でも加州清光は彼の初期刀であり、長いこと苦楽を共にした掛け替えのない弟のような存在だった。

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蒼司が審神者としてこの本丸へ来て以来、順風満帆に事は運んでいた。
日々鍛刀して新たな刀剣男士を迎えたり、出陣先で入手した刀を受け入れたりと、この本丸が賑やかになるまでそう時間はかからなかった。
ほかの審神者の間ではやれレアだのなんだのと差別化をはかる者もいたが、彼にとって刀剣男士は『家族』みたいなもの。分け隔てなく、時に主として厳しく、時に家族として優しい、そしてそれ故に脆くもある審神者であった。

悲劇は、何の前触れもなく起こった。

「あるっ、あるじさま!加州が、しゅつじんしたぶたいがもどってきました!」
「ああ、早かったね…どうした今剣、そんなに慌てて」
「ていれべやに!はやく…!」

血相を変えた今剣に手を引かれ、手入れ部屋を開けた先にいたのは、血に染まった加州清光だった。

「これは、どういう、ことだ」

「…ごめん、主…俺、隊長なのに皆の事、守れなかった…」

ぐ、と起き上がる加州清光を静止して、蒼司はその手を握る。冷たい。出血が酷い。無理やり笑う彼の顔は蒼白だ。


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