第5章 力の使い所と彼らとの距離
「いいんじゃない?やってみたら叶弥」
「おう、じゃやってみるか、ってオイ、そんな軽いノリじゃないだろ」
はははと笑う傍らの相棒にツッコミを入れると、特段普段とかわりない笑顔でやってみなよと尚も続けた。
叶弥の器の底をまだ知らないカノンは、それがわかるいい機会と考えたせいだ。元々キャパシティが多めだと感じていたのだが、急な枯渇に対応できなかったらという、やや過保護な視点からそれを探れずにいた。次いで知る必要があると考えたのは、カノンが一番気になっている“叶弥そのものが作り出す神気の所在”だ。
叶弥は全く気づいていないのだが、実の所、最近は自らの神気を分け与える機会が減っているのが気になっていた。供給する量より、消費する量が明らかに少ない。燃費がいいのかといえばそれも違う。それらが示唆する所はつまり、
(叶弥自身が神気を創り出しているから、補充もあまりしなくて良くなった、のか?)
あまり喜ばしい事ではない故に、思わず眉根を寄せる。
普通の人間に稀に宿る神気は事故のようなものだ。たまたま通りかかった神格を持つ神々の悪戯であったりするのだが、それ自体はごく微量なのでせいぜいあちら側のものを多少引き寄せやすいとかちょっと見えるとか、そんな程度のものでしかない。
しかし叶弥のように普通の人間が神気を自ら生み出すと言うことは、神になると同義だ。完全に人間であることを止め、輪廻転生の輪から外れてしまうということになる。カノンにしてみればそれはあってはならない事であったし、しかし危惧していた事でもあった。
(元々叶弥の内に神気の種が仕込まれていた?いや、なら僕が気付くはずだ…だったら何故)
思考の渦に飲まれて意識を飛ばしていると、叶弥に袖を引かれてハタと気付く。訝しげに見上げる愛しい相方の頭を「大丈夫だよ」と撫ぜると、少しくすぐったそうにしながらもすり、と顔を寄せてきたのだった。
「いやぁ、妬けるな」
「何がだ?三日月の旦那」
「うむ、こちらの話だ。独り言が多くてすまんな、年寄り故」
二人の様子を笑顔のまま見つめる三日月宗近の目は、張り付いたその笑顔とは裏腹に見据えるように冷たい三日月が漂っていた。