第4章 “私”を認知するもの
歴史修正主義者、と言ったか。
刀剣男士を従えてそれらと戦う、審神者である蒼司の毎日は実に淡々としたものだった。
普段から表情が穏やかなままの彼を、叶弥は実は苦手な方だと意識していた。読めぬ内心、貼り付けられた笑顔の下にどんなものが隠されているのかと思うと、若干の恐ろしささえ感じる。
三日月宗近にも似たような雰囲気を感じているせいか、あんまり鉢合わせたくないなぁとぼんやり考えていた。
蒼司は実力者でもあるようで、それは時折訪れる政府の役人らしい者の態度でも明らかだった。機嫌を損ねたりしたくないのだろう、叶弥の存在も黙認されたようなものだ。
(いいんだか悪いんだか)
ハタと石切丸と目が合い、居心地の悪さを感じて目を逸らす。
「…何か私の顔に付いているかな?」
「いーや、うん。いし、きりまる?は、強いて言うなら父親役だなと思って」
「(名前の語尾に疑問符が付いたな)…ははは、父親か。悪くないね」
ゆるりと立ち上がって「では、行ってくる」と告げて、石切丸は蒼司の元へと行ってしまうと、叶弥は足を投げ出したままゴロンと横になった。
蒼司の周りにいた刀剣男士がしきりにこちらを気にしていたのは知っていたが、積極的に絡む気も起きなかった。
こちらへ来てしばらく、刀剣男士達を集めて自己紹介云々言われたのだが、丁重にお断りしておいた。居候の身の上貴重な時間を割いて貰うのは悪いと、表向きはそれでゴリ押ししておいたのだが。
「…やっぱり怖いの叶弥。他人と触れ合うのが」
「わからない」
「コミュ障加速してるねぇ、よしよし」
頭上から降る影と柔らかい声。ゆるゆると頭を撫ぜられて叶弥は目を閉じた。やっぱり片割れにはお見通しみたいだったなと思いながら、暫くはその優しい手にされるがままだった。
カノンは叶弥を知る唯一の存在。
恋や愛などという枠すら超えた、特別な存在なのだ。
家族?そうかもしれない。一番近い表現としては、それが適切だろう。
「カノン。カノンは私にとって特別なんだ。最終的にカノンさえいれば、それでいい」
呟くように言われたカノンは、黙ったまま頭を撫ぜ続けるのだった。