第4章 “私”を認知するもの
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ゆるゆると時間は流れる。
叶弥がこの本丸内部を把握する場所が限られているせいか、庭が眺められるこの部屋に入り浸ることが増えていた。
裏庭なのだろう、普段は実に静かなものなのだった。
「どうだい、少しは馴染めたかな?」
「んー、少しは」
縁側から庭先に素足をぶら下げ、傍らに茶菓子と石切丸を従えた叶弥は、ズズズと緑茶を啜っている。
叶弥の視線の先には蒼司がいて、周りには幼い姿の刀剣男士達が群がっていた。
「…主だなんだというけど、近所のお兄さんみたいだなあアレは」
「ははは、面白い例え方をするね叶弥は」
近所のお兄さんが何かはよく知らないが、例えるならそうじゃないかと不意に口をついて出ただけだ。
叶弥の記憶が定かでない以上あくまでもそれは知識として刷り込まれただけのたとえ話なのだが、石切丸は違和感を感じていた。
カノンと話をした際に記憶に纏わる話は余りしないようにと忠告されており、且つ余計な詮索はしないで欲しいと付け足されているのだ。
審神者でもない、しかし、一般人ともまた違う存在。
(側にいると感じる、心地よい神気…一体何者なんだろうね)
叶弥は普段彼らと話をする時、二人分位の距離をあけている事に石切丸は気づいていた。おそらくテリトリーなのだろう。そのせいか、叶弥から発せられている神気を普段感じる事は無いのだが、そこへ容易に入り込めるカノンや加州清光の事を少しばかり羨ましいとも感じていた。
「石切丸!そろそろ出立の時間だ」
「わかりました、振り分けは昨日話したままでよろしいのですか?」
「ああ。それと、今度の場所は検非違使が来るかもしれないからね、お守りを一人ひとりに持たせて欲しい…あそこは最近妙な気配がするからね。絶対に無理はしないように」
「存じております」
この本丸に来て十数日。
叶弥が把握するところによると、蒼司が所持する刀剣男士は戦場で回収した物も含めて35振り。刀の種類はそれこそ膨大ではあるのだが、蒼司自身の意向によりこれ以上増やす気は無いらしかった。
(ま、35人もいるんじゃ大所帯だわなぁ)
遠巻きに彼らを眺めていた叶弥は、隣の石切丸を見上げてため息をついた。