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アサギリソウ

第4章 “私”を認知するもの


切られる、というのはいささかキツイ冗談だが、叶弥には思う所があるらしい。

「…なんかなぁ、時々感じるんだよ、視線」
「三日月の爺さんじゃなくて?」
「あいつは堂々と目の前で凝視して来るだろ」

肩をすくめてそう言うと、握っていた雑巾をおもむろに丸め始めた。適度に湿ったそれはある程度形を維持できるらしい、途端障子の隙間に向かってそれを勢いよくブン投げた。
ギリギリ空いた隙間から先、鈍い打撃音と同時にカエルが潰れたような声が耳に届いた。

「…意外とイケるもんだな、クリーンヒット!ッシャ」
「えぇぇ……」

今剣と加州清光が駆け寄るとそこに伸びていたのは、金色の頭をした少年だった。









「ははははは、まさかバレてるとはなぁ!!」
「のぞき、いくないですよ、獅子王さん」
「っはは、悪い悪い!」

両鼻にちり紙を詰めてカラカラと笑っているのは、覗きをしていたらしい刀剣男士、獅子王だった。
笑顔が眩しい、金の髪が鬣のようで、正に“獅子”と言った風貌だ。

「えーと、このし、しし…しお?」
「あっもうちょっとです、おしい!」
「そうか?」

本当に名前を覚えるのが苦手なんだなと呆れた顔をする加州清光は、叶弥にもう一度彼の名前を告げた。

最近の視線の正体は、どうやら獅子王で間違いなさそうだった。本人曰く、遠聞きした印象を確かめるためにちょいちょい見に来ていたらしい。じゃあさっさと話しかけに来たら良かったじゃないかと不満を漏らす叶弥をまあまあと宥める加州清光をよそに、獅子王は「こっそり観察するのが楽しかったからやった、後悔はしていない」とこれまた悪びれもせずに豪快に笑っているのだった。

「三日月の爺さんがえらく肩入れしてたみたいだったからな。どんな才色兼備かと思ったら、とんだじゃじゃ馬だ」
「それはありがとう」
「叶弥、褒められてないからそれ」

出会い方は良くはなかったが、お互い悪い印象がわかなかったらしい。なんとなくだけど獅子王とは気が合いそうだとはにかんで話す叶弥に、加州清光が不貞腐れてそっぽを向いたのもご愛嬌だ。

これ以降、獅子王とつるんでいろいろやらかすのは、また別の話。
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