第3章 歪な存在を囲うもの
定期報告に訪れたこんのすけを帰し、審神者である蒼司はさて、と叶弥を見る。そこには厳しさを感じさせる目があった。
「君が異世界から来て、加州清光を顕現した。それ自体も驚くことではあるんだが、検非違使が君たちを敵とみなした事実の方が厄介なんだよ」
━━西暦2205年。時の政府は過去へ干渉し歴史改変を目論む“歴史修正主義者”に対抗する為、物に眠る想いや心を目覚めさせ力を引き出す能力を持つ“審神者”と、その力により顕現された付喪神“刀剣男士”を各時代へと送り込み、戦わせていた。
しかし、彼らや“歴史修正主義者”双方の存在を良しとしない第三の勢力“検非違使が”介入し、事態はさらに混乱を招いている。
「つまり、だ。君は“こちら側”の存在であると検非違使から認知されている可能性が高いということなんだ」
検非違使にとり、歴史に関わり仇なす存在だという意味らしい。
「…まあ、元々こっちの世界の人間じゃないし、け、けび、カビ?…なんでもいいや。そいつらからしたら排除の対象なんだろうな」
検非違使、覚えなよとカノンに突っ込まれて肩を竦める叶弥に、蒼司は本当に分かっているのかと疑いたくもなる。しかし彼らの雰囲気のせいか、そう突っ込む気にもならないでいた。
(カノンが叶弥を全面的にフォローしているんだな。ちぐはぐなようでいて、正に魂の片割れというべきか)
「そういう訳だ。私たち審神者と似た力を持っていたとすれば尚更。君たち二人のそれは、あまりにも不自然かつ存在感があり過ぎる。正直この本丸にまで手が及ぶんじゃないかと心配もしているんだ」
「…」
叶弥とカノンは顔色を変えない。異世界を渡り歩いてきたと言うこの二人にとっては、蒼司が言わんとしている言葉は想定内なのだろう。彼らの言うことが嘘でないとして、その力は正に不幸の象徴だ。望まずして得た力。それは少しずつ心を蝕んでいくのだから。
「…いーよ別に遠まわしに言わなくたって。ここから出ていくって選択肢も、ハナから私にはあったわけだし。今までと変わらないだけだ。…私にはカノンがいるからな」
そのセリフが強がりに聞こえないのが、今まで彼らがどう生きてきたかが読み取れる。自らの運命を受け入れているような、諦めているような、そんな声色だった。