第3章 歪な存在を囲うもの
「蒼司さま。つまりはこの方を、この本丸で匿い面倒をみると、そういう訳ですね?」
「まあ、端的にはそういうことになるな」
「…困りましたね。上へなんと報告したらよいものか…」
小さいマスコットみたいな狐と話をする蒼司を、隣でチラと見上げる。
顔色は全く変わってはいないのだが、どうも私たちの存在がかなり厄介らしい。下手に口出しはしないが、不本意にも落とされたこの世界でなんとかやっていけそうなら見逃してくれないかな、なんて、まるで犯罪者にでもなったかのような心境でいた。
「それで、あなたはどうされたいのですか?」
「…どう、と言われても」
私には帰るべき世界がない。
繰り返し世界を渡らざるを得ないのも、余分なピースを弾きだそうとする世界そのものの意思故かもしれないと、最近は考えるようになっていた。
つまりはここでも、余剰な存在。
チクリと痛んだ胸が、不意に涙腺を緩ませる。
わざとらしくウーンと唸りながら首をかしげて、溢れそうなものを誤魔化していた。
「僕らは特に目的はないんだ。時渡りの力を持つ叶弥は不幸と言っていい。守るために僕は存在するし、叶弥は叶弥である為に、ここに在り続けている。それが真実だよ……なにしてるの叶弥」
至極真面目な話をするカノンを無視し、私はこんのすけと呼ばれたマスコットをつついていた。だってさ、小難しい話なんてつまらないし、ゆるんだ涙腺を引き締めるためにちょっと誤魔化したくもなるだろ?それに、この狐は触り心地がいい。
「まぁ、不審なのは分かるよ。何なら牢にでもいれとく?」
人事のようにさらりと言うと、カノンは頭を抱えてため息をついた。
「何だってそう自暴自棄なの叶弥」
「だって、めんどくさい。嘘偽りない事実を言っても信じられないならそれしかないじゃん」
外見は傍若無人な風に見えるかもしれないが、私の本質は実に後ろ向きなのだった。ただ、かばってくれているらしい蒼司には良くない言い方だったかなと自省する。ややあって、ごめんとだけ呟いた。
「…まあいいでしょう。蒼司さまがそうおっしゃられているのであれば、上も無下には扱わないでしょうし。ただし、本丸からは絶対に出てはなりません。検非違使があなたを追いかけていたという事実も非常に気になります」
「わかった」