第2章 居場所
「俺には同等の気しか感じ取れなかったが?」
「そこは野生の感というものでございましょう、三日月殿」
「そんなものか」
「ええ、そんなものです」
不敵な笑みを向けて二人で笑い合うのを見ていた薬研藤四郎が、かけていた眼鏡を外してコホンと一つ咳払いをした。
一番最初に訝しんだのは彼だったのだが、彼が危惧していた事は未だに起こる気配がない。
最初は審神者に仇なすものかと随分警戒したのだが、拍子抜けする位に、彼らは普通だったのだ。
何より、加州清光の存在が彼の心を乱していた。
それは、この本丸に加州清光が不在だという事実に他ならない。
加州清光を初期刀として顕現した自らの主と、何の悪戯か同じく初期刀として彼を顕現し、迎え入れた叶弥の存在が不快であったという実に身勝手な気持ちから、彼らを不審人物として蒼司へ進言したのが薬研藤四郎本人だったからだ。
「まあ、大将がいいなら別に。ただ俺は、アイツを好きにはなれない」
若干バツが悪くはあるが、どうにも合わない感覚が払拭出来ない。もとより必要以上関わるつもりもなかったのでこのままでいいと、そう思っていたのだが。
ドタドタと廊下を走る音が響き、スパンと障子が派手な音を立てて開かれる。
そこには鬼の形相をした件の人間が息を切らして立っていた。
「や、やか、やげん?大変だ!鍋が爆発した!中身が飛び散った!夕飯がお釈迦だ!!」
「はあぁ!?どうやったら鍋が爆発するんだ!しかもお前俺の名前また覚えてないだろう!!」
「あるじさまー!叶弥がまたばくはつさせてますよー!これでなんかいめですかー!?」
目を丸くしていた蒼司と三日月宗近、小狐丸は、一瞬の沈黙の後呵呵大笑する。
「あっはっはっは、今剣まで手篭めにしたか、やるな叶弥」
「くっ…その内この本丸ごと爆発させてしまいそうですな」
蒼司は顔を背けて震えている。
叶弥が来て以来、毎日騒がしくなったと蒼司は思う。
不思議な子だ。欠点も見受けられるが、彼は決して折れることがない心を持っているように思う。
飾り気がない素のままらしいその姿は、薬研ですらそのペースに巻き込んでしまうほどだ。
(居場所、か)
ゆく宛がない彼らにとり、この本丸が少しでも居心地が良くあればいいと、蒼司は内心で独りごちたのだった。