第2章 居場所
そばに控えているのは、三日月宗近と小狐丸だ。
「そう言えば小狐丸、あの後薬研について行ったんじゃなかったのか?」
「…鳴狐とばったり出くわしましてな。結局行かずじまいでした…ぬしさま、申し訳ありませぬ」
ああ、鳴狐か。苦笑した蒼司はコホンと咳払いをする。
彼らがこの本丸へ来て幾日。
言葉を交わすものは限られてはいるが、それなりにうまくやっているようだった。
些事ではないのだが、審神者としての任務もある蒼司はそう暇でもないため、彼らの事を薬研藤四郎、三日月宗近、小狐丸へ面倒を見るように指示を出している。
関わった当事者外で言うなら、石切丸も気にかけているようだった。
「彼らは真名を明かしているようだね。石切丸から聞いたんだが、私とはまた別の力を有しているとか」
蒼司が専ら興味を引かれているのは、審神者でもない者が加州清光を顕現したという事実だ。
勿論、ぽっといきなり現れた異世界人という事もだが、正規ルートを通過せずにそう出来た事に一番気を引かれた。
三日月宗近がス…と立ち上がり、目を細めて笑う。
「…俺を撫でて、心の奥底を読み取るような事を言っていた。力のせいかは分からんがな」
「楽しそうだね三日月」
「あなや、そう見えるか?」
表情を隠すように袖で顔半分を隠す姿がなんとも雅だ。
天下五剣、一番美しいと言われる三日月宗近は、顕現した姿も実に美しい男だ。本人は自覚しているのか、そう言われることに全く抵抗がない。古い刀ということもあり、爺と揶揄される事もある。
普段あくまでも審神者である蒼司に忠実である反面、決して表情を崩さず微笑を湛えたままの彼の内面は、蒼司にも推し量りかねていた。
それを、出会って数日で掬い上げたらしい。
「…恐ろしいね。三日月が一目置くのなら間違いないだろう。小狐丸、君はどう思う?」
白い髪を揺らしながら、小狐丸は顎に手を当てて少し思案した。
「小難しい事はこの小狐には分かりかねます。しかしながらぬしさま、わたくしが気になるのは片割れの方でございます」
「ふむ、どのあたりがかな?」
フンフンと鼻を鳴らすしぐさをしながら、赤い瞳を光らせて答えた。
「においますな、魂の片割れと聞き及んでいますが、どうにも歪なにおいが、この小狐には感じ取れますゆえ…」