第2章 居場所
夢?明晰夢?
ああ、私は『また』ここへ来たのか。
内側にある、自らの出自に関わるなにか。
感じながらもそれを暴こうとはしなかった。
できなかったんだ。
カノンから注がれる神気は、私の時を止めるためにはなくてはならない力だ。
同時になぜ私には記憶がない、或いはこうも霞みがかってハッキリしないのか。それを問いただそうとはしてこなかった。
それを知るのが怖い。
そう、夢の中の私はこうして自分の在処を探すことの重要さを認知しているのだろう。
現実へ引き戻される前に、ここを探索しなければ。
「ないなぁ…私はどこだ叶弥」
何も見えない白い世界を、ひたすら手でかき分けて歩を進める。
「!?」
なにか、掴んだ。
「…手?なに、誰だ」
白い手。
少し親指の爪が大きめのその手は、まるで私のようで。
「叶弥、待ってたよ」
玲瓏と響く若い男の声がして、その手を思わず離す。
(あぁ、だめだ、触れてはならない)
影が揺れて、全体のシルエットが浮かび上がり、近づいてきて━━━
「━……ッ!?」
飛び起きた私は、汗がぐっしょりだ。
心臓の鼓動が、耳の奥で忙しなく響いて思わず顔を顰める。
「今のはなんだ、不快な、夢」
擦れた声が、上がった息で乱れるのがわかる。
「んん…ああ、起きたのか。おはよう」
「…えーと」
「そなたは昨夜、俺の部屋の前で寝ていたのだ。当てがわれた部屋も分からなかったのでな。俺の布団を貸してやったというわけだ…ひどい汗をかいているな」
青い夜着を纏ったひどく綺麗な男を必死で記憶から引っ張り出す。誰だったか。ああ、戦場で私を助けたやつだ。
「すまない、私のせいで眠れなかったよな。あっ、汗で布団を汚したかな、洗濯とか干したりしないと」
きょと、と目を丸くして私を見る。つられて見つめ返すと、訳が分からないというふうに首を傾げて見せた。
「この流れで寝具の心配をするとは、いやはや、変わっているな」
「…よく、言われる」
クスとどちらからともなく笑いが漏れると、先程まで耳に不快だった心臓の音が凪いでいった。
不思議な男だと思う。ゆるく笑う仕草に余裕も感じるし、どこかしら触れ難くも感じるのに、思わず目をやってしまうような存在。少し、カノンに似てるのかな。そう思いながら細められた瞳をじ、と見た。