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アサギリソウ

第2章 居場所


「無防備な上に、この子からは神気を感じるね。…加州清光を顕現したというのが本当なら頷ける。連れらしいのは私は見てはいないが、同類と見て間違いはないだろうね」
「…石切丸、そなたに相談したのは正解だったようだな」
「ははは、ほかの奴らはこういうことには疎いだろうからね」

三日月宗近は、石切丸の出自をわかった上であえて話を持ちかけたのだ。その名の通り石をも切る大太刀ではあるのだが、専ら神社で祀られていた為にそちらの方が得意になってしまったというのは、本人の話による所。三日月宗近が彼等に出会い、感じた違和感を払拭するために、いち早く詳細を石切丸に伝えたと言うわけなのだった。

普段のらりくらりとして掴みどころがない、天下五剣である彼がわざわざ石切丸に声をかけた。それ自体が珍しくもあったが故に、そうも興味を惹かれる存在とはどういう者なのかとも思う。
たまたまこうして出くわした件の人間は、何の変哲もない、しかし明らかに“こちら側に近い”普通の人間だったことに妙に安堵した石切丸は、冠を正しながら部屋を後にしようとした。

「…三日月殿。よもや、取り込もうとはしてはおられますまいな」
「まさか」

振り向いた先で視線がかち合う。
彼の瞳にのぞいた三日月は、彼の内面を物語っているようだった。漆色の闇に映えるであろう、三日月。
決して表には出さない彼の烈情を感じ取り、思わず身震いする。

「敵には回したくないね、三日月宗近」

そう言い残し、石切丸はトンと戸を締めたのだった。




「ほんに、奴は洞察力が良すぎる。だからこそ話をしたのだが」

正座をして目の前の人間を見据えるが、彼の思惑なぞ知る由もない叶弥は、ただただ寝息を立てるのみ。そっと頬にかかった髪を退けてやると、だらしなくへへへと笑っているのだった。

「こちらの気も知らずに。とんだ拾い物をしたものだ」

一目見、感じた神気に魅了されたのは間違いなかった。この人間自身というより、そこに内包された香しい程の神気にだ。己の主もまた神々しい神気を持ちはするが、こうも惹かれる神気を持つ人間には未だかつて出会った事がない。

夜の帳がおり、チリチリと虫が音色を奏で始める。
今夜は満月らしい。
障子から淡く差す月明かりが妖しく微笑む三日月宗近を青く浮かび上がらせる。彼は目の前の人間の目覚めをひたすら待つのであった。
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