第2章 居場所
「…こだまでしょうか………ってバッカじゃねぇの!?なんで響くくらい無駄に広いんだよ!!つうかなんで迷子になってんだ私は!」
ボーッとしながら最後尾をのたのた歩いていたらはぐれたらしい。気がついたらぽつねんと独りで佇んでいたという訳だ。
監視役を兼ねているらしい薬研藤四郎に、仕事怠慢だのとお門違いな悪態をつきつつ、仕方が無いからひたすら歩を進めて部屋という部屋を手当たり次第開け放っていった。そのうち誰かいるんじゃないかと思って。
バン!「たのもー!」
バン!「たのもー!」
バン!「…たのもー!」
バン!「…たの…居ねぇ」
バン!「…何部屋あるんだよ」
バン!「いい加減心が折れそう」
バン!「……泣くぞ?」
グッタリと部屋の入り口で突っ伏して涙目になる。泣いてないぞ、これは生理的な水分の分泌だ。決して悲しくて泣いている訳では無い。
「疲れた…」
開け放った戸を締め直し、ふてる子供よろしくと膝を抱えて座り込んだ。遭難したら下手に動くなとかいうのを思い出し、ため息をついてうつらうつらとし始める。ああもうめんどくさい。なんだって毎度私はこんな目に合うんだと思いながら瞼を閉じたのだった。
「…おや、俺の部屋の前に何かいるなぁ」
「ふむ。あなたが言っていた訳アリの人間かな?」
遠征から帰った刀剣男士の一人、石切丸を従えて、三日月宗近は話をしながら自室へと向かっていた所だった。出陣した際に遭遇した、不思議な人間の話をしている真っ最中だった。どうやら眠ってしまっているらしく、側によるも全く反応を示さずに膝を抱えたまま微動だにしない。三日月宗近が腰を折ってのぞき込むも、すうすうと寝息を立てているのだった。
「そういえば薬研がなにやら騒いでおったな。つまりはこれか」
「おそらくは」
世話の焼ける居候だと苦笑しながら、その身を抱え上げる。想像より軽く、しかし暖かな重みをその腕に感じながら、石切丸に自室の戸を開けるように促した。
「俺が見張っておくから主と薬研へ伝えてくれぬか。恐らくこのまま朝まで目は覚まさないだろう」
「しかし、薬研はなんだってあんなにピリピリしているんだろうね」
敷布団を下ろし、叶弥を寝かせてふわりと掛け布団でその身を覆ってやると、ムニャムニャと身じろいでだらしなく笑っていた。とても警戒するような者には見えない。