第2章 居場所
「…なんで笑ってんのカノン。気でも触れたか」
「あっはっはっは…ふふっ、いや、ね。叶弥、神隠しって知ってる?」
「知ってるような知らないような。名前と関係あるの?」
「大ありだよ!まぁ、叶弥の場合は規格外だからその心配はないだろうけどね」
言っている意味がさっぱりわからない。名前と言えば、どこかで『名は体を表す』なんてセリフを耳にしたこともあったような気がするが、つまりはあれか、個人情報的な事なのか。
私の頭の中がわかっているのか、なおもクスクスと笑うカノンに、加州清光までもが訝しげに首を捻っていた。
「さ、小難しい話は後にしようか。この部屋を片付けてしまわないと、さっきの彼がきっとうるさいからね」
「よーし、じゃあちゃちゃっとやりますか!あっ、かしゅー!お前掃き掃除な!」
「…なんか名前若干覚え違いしてる気がしなくもないけど、まあいっか。主の命令なら仕方が無いからねー」
「だから!主ってのはやめろ!」
襖を開け放って、長いこと閉ざされていたらしい部屋に新鮮な空気を取り込む。光が差し込むと、埃が舞って白くなってまた咳き込んだ。最中も主だのなんだのとうるさい加州清光とやいのやいの押し問答を始めた私たちを、優しくカノンは見守っているのだった。
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私たちが住むことになる、このやたら広い本丸の一画である八畳の間。(私がさっき名付けた)
どうやらここの住人達から何時でも目が届く場所にわざとあてがわれたらしい。それが特段悲しいともなんとも思わないが、至極当然の判断だと納得していた。
(一体何人住んでるんだ)
自慢じゃないが、私は方向音痴を自負している。
あれから一刻。ほぼぴったりに姿を現した薬研藤四郎の案内で、一通り生活するにあたっての本丸内の案内をされていた。
(…えーと。あっちが厠でこっちが炊事場、だったはず)
オマケに人の名前を覚えるのが物凄く、物凄く壊滅的に苦手なせいで、薬研藤四郎の名前すらマトモに思い出せずにいた。
「なんだっけ。やげ……や、や、…………ヤカン?」
ダメだ。ここは魔窟だ。迷路の様な間取りにやたら多いらしい住人の名前。とてもじゃないがマトモに生活出来る気が全くしない。
「無理。カノンー!お前の相棒が瀕死の重症だぞー!!」
ぞーぞーぞーーー……………