第2章 居場所
連れていかれた先は、実に質素な部屋だった。カノンと二人でいる分には全く問題は無いのだが、いかんせん埃っぽい。ケホッと咳払いする私を、薬研藤四郎は目を細めて睨むのだった。
「居候させてもらえるだけ有難いと思え。部屋は自分達で掃除をしろ、用具は二つ手前の部屋にある。…壊すなよ」
「壊さないよ、僕が管理するからね」
「ふん」
最後に部屋に入った加州清光は、キョロキョロとその視線が忙しない。そうか、カノンだけじゃなくてこいつもいるんだった。
「狭い」
部屋の間取りから三人分の布団を敷き詰める想像をして、八畳あるかないかだと予測を立てる。まあ、多少は余裕があるかもしれないなと独りごちた。
「一刻程したらまた来る。お前達の具体的な処遇を話し合わないといけないからな。…タダで居候出来ると思うなよ」
「わーかってるよ、イチイチとげとげするなよ少年」
「俺と背丈も大差ないくせに」
合わない。
多分これはお互いに一致する思いだろう。初見からして「あ、こいつはダメだ」って直感が働いたのは間違いなかったようだ。
苦々しげに顔を背けると、いつの間にか手に携えていた小箱をグイと押し付けられた。
「…人間は俺達とは修復方法が違うからな。その汚い面を治しておけ」
「どーも、汚くてすみませんね」
険悪な空気を纏ったまま、彼は部屋を後にした。間違いなく今の私のストレスの元凶が去ったことで緊張の糸が解けたのだろう。カノンと加州清光も合わせて安堵のため息をついた。
「主ー、ここ掃除するんだよね?俺汚れるの嫌なんだけど」
「わがまま言うな…ってか、誰が主だよ」
「俺を顕現したあんたが主。覚えてるでしょ?声に応えてくれたじゃん」
嬉々として私を見つめてくる瞳が無邪気で思わず言葉に詰まる。なんだかいたたまれない思いで目を逸らすと、頭を掻いて即座に否定した。
「私は主って名前じゃないし、なんか仰々しいというか違和感あるからやめて欲しいんだけど。大神叶弥が名前。出来ればそっちで適当に呼んでくれたほうがいいんだけど」
つらつらと私にとっては当たり前の事を話す。対する加州清光は言い終わるや否や目を丸くして固まってしまった。なにかまずい事を言ってしまったんだろうか。いや、普通の自己紹介だろうと一通り思案していると、隣にいたカノンが突然吹き出した。