第23章 届かない声/明智光秀 *夢主side*
あの日、私は1人で城下に買い物に来ていた。
買い物を済ませて帰ろうとしたら突然の雨。
傘を持っていなかった私は、軒下で雨宿りをしていた。
「やみそうにないな……どうしよう」
雨のせいで辺りは一気に暗くなり、1人で帰るのが心細くなってきてしまう。
もっと時間がたってしまえば、更に暗くなっちゃう。だったら今帰った方が?
そう考えた私は濡れるのを覚悟して雨の中を走り出したけど、思った以上に雨は激しく降り、風も突き刺すように冷たい。
すぐに体温が奪われてしまい、走る足がおぼつかなくなる。
それでも懸命に足を動かしているけど、水たまりに足をとられて転んでしまった。
「もう……最悪……」
半べそになりながら立ち上がろうとすると
「こんな所で寝ていると風邪をひくぞ」
「……光秀さん」
傘を差し薄ら笑みを浮かべ私を見下ろしていた。
「寝ているわけじゃないですけど」
「そうだったのか」
私は光秀さんが苦手。
普段から何を考えているのかわからないから。
それでも手を差してだしてくれたので、その手に掴まり立ち上がった。
「ありがとうございます」
「1人で城下にきたのか?」
「はい」
「御館様が寵愛する姫君とは思えん行動だな」
「そうですか?信長様の許可はもらいましたけど」
「出掛ける時は籠を使うようにしろ」
「どうしてです?」
「悪い男に拉致されるぞ」
背筋が凍りつくような冷たい笑み。
私は身体の震えが止まらなかった。