第34章 満月
《おまけ》
午前中に届いたメール。
『月が…綺麗だよ?
離れてても同じ月を見よう?』
照りつける太陽の下でみたのは、漆黒に浮かぶ綺麗な月。
日本から12時間遅れて見るであろう月。
未来からのメッセージみたいだ。
いくつもある試合会場を行き来する。
スポーツの祭典。
あちらこちらの競技場で様々な競技が行われる。
試合が終わる度、ミックスゾーンでマイクを持って競技を終えた選手に声をかける。
喜びに満ち溢れる選手にマイクを向けるのは楽しいけど…。
金メダルはひとつだけ…。
みんながみんな、喜んで答えてくれる訳じゃない…。
本当はもっとカメラの前に立つはずだった。
そのためにリオに来た。
でも…状況が変わった。
生でカメラの前に立てばあの件に触れないといけない可能性が高まる。
俺は構わないけど…事務所の意向。
大人の都合と言うやつだ。
30を越えてもなお、大人の都合には敵わない…。
正直、負けた気分だった。
どうにもならない流れに巻き込まれて…負けた。
でも、負けは負けなんだと…思う。
そういう立場にいるんだと改めておもった。
そこに届いた智くんからのメール。
まるで金メダルみたいに見えた。
「俺に金メダル…くれるの?」
思わず溢れた…。