第29章 大野智氏の(意味有りげな)微笑
「いや…そんなこと…ないよ。
とにかくさ、帰ろう?
このままじゃ、風邪ひいちゃうよ?」
確かに部屋着のまま、上着も持たずに出てきたから寒くなってきた。
でも…。
「やだ、帰らない…
……っくしゅんっ!」
「なんで?
くしゃみしてるしほんとに
風邪ひいちゃうよ?
ドラマの撮りに影響したら
まずいでしょ?」
翔くんの言うことはわかるよ?
でもさ…。
「やだ!帰らない!翔くん、嫌い!」
「嫌いって…
地味に傷つくなぁ、それ。
ね、でもさ、ほんとに帰ろう?」
「やーだっ!
んっくしゅんっ、くしゅっん」
「……智くん。
わかった、俺が悪かった!
智くんの気がすむまで
なんでも聞くから…。
とにかく帰ろう?ね?」
やった!翔くんが折れた!
内心ガッツポーズをしながらちょっと潤んだ目で翔くんをみる。
「…今の……ほんと?
なんでも…聞いてくれるの?」
「いいよ。
聞くから…ね?」
「わかった…帰る。
でも約束だからね?」
一応、念押しして翔くんが停めたタクシーでマンションに戻った。
そのまま風呂場に連行されて…。
お風呂に浸かりながらニヤニヤが止まらない。
翔くん…覚悟しとけよ?
男に二言はないよね?
危うくのぼせそうになってやばいと思って風呂を出た。