第29章 大野智氏の(意味有りげな)微笑
とりあえず鍵と携帯と財布だけは握りしめてきたものの…。
行く当てなんてない。
まだ夜は寒くって…さっき飲んだのにコンビニでコーヒーを買って近くの公園でブランコをこぎながらどうしようか考えた。
ニノたちはあの調子じゃ頼れないし…。
本当に後輩にでも電話しようかなぁと思って、スマホの電話帳を開くけど…。
後輩の名前なんてそこにはなくて…。
「あーぁ…どうしよかなぁ」
ブランコを小さく揺らしながら空を見れば月が煌々と輝いている。
ちっぽけなことで喧嘩したのはわかってる。
でもさ…僕だって…。
ガサっていう音が背中の方で聞こえて、体がビクッとする。
次の瞬間…後ろから抱きしめられた。
誰かなんて聞かなくてもわかる。
翔くんの匂いがした。
「ごめん…。智くん。俺が悪かった…。
あんな言い方して…。
仕事だって…わかってても…
我慢できなかった。
嫉妬…したんだよ。
風磨にも他の後輩たちにも…。
俺たちの…俺だけのものだって…
声を大にして
あいつらに言ってやりたいのに…」
「翔ちゃん…。僕も…ごめんね。
でもね…信じて?
僕は翔くん達以外のことは
なんとも思ってないから。
でも…信じてもらえないみたいで
悔しかったんだ…。
僕だってたまには先輩みたいなことも
したいんだよ?
それさえもダメなのかなぁ?」
後ろにいる翔くんを覗き込むようして言ってみた。