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絶対絶望壮年 ーカムクラといっしょー

第5章 地下鉄にて


「……ひっ、ひぃぃっ…………!!」
コドモは頭を押さえながら覚束無い足取りで走り、そのまま地下鉄の闇に消えていってしまった。
「…………」
暁はその場が収束したことに一先ず安堵する。
カムクラは黙ってまた行く道を歩き始めた。
「……青年、助けてくれてありがとう。でも、あそこまでしなくても良かったんじゃないか……」
暁がカムクラの背を追いながら言う。
「………………」
カムクラは何も答えなかった。
暁もそれ以上何も言うことはなかった。
また歩くだけの音が地下鉄に響く。
「…………」
暁は先導するカムクラの様子を見つめては、気まずそうに視線を下げる。
今まではモノクマを、つまり機械を壊すだけだったから、コドモに手をかけるとまでは自然と思っていなかった。
年端もいかない子供を殺すことはどんな理由であれ暁にとっては憚られるものだった。
それに、カムクラの反応に対しても思う所がある。
――甘いですね、あなたも――
「あなたも」と複数形だったことを暁は思い返した。
冷たい眼も無視もこれまで何回もされた反応なのだが、先程のカムクラの纏う雰囲気のどこかに苛立ちか何か、怒っているような感情が見えた気がした。
そう考えると、今のカムクラの歩く動作も少し機嫌が悪いように感じる。
誰かと重ね合わせたということは、前にもこのような状況でカムクラに対して同じようなことを行った誰かがいるということだ。
殺人を止めること自体は普通の行動なはずだから、カムクラの機嫌が悪い理由があるとしたらコドモを殺すのを止めたことではなく、重ね合わせた誰かを思い出したことで不機嫌になっているという可能性もあると暁は考えた。
だとしたら、その人物は一体どんな人なのだろうか。
「……「あなたも」とは…………?」
ポツリ、と暁は心の中の呟きを声に出してしまっていた。
「………………」
無意識だった暁が慌ててカムクラの様子を窺う。
カムクラの溜め息が、反響する足音に混ざって微かに聞こえた。
「……別に怒ってはいないので、そんな辛気臭い顔で見ないでくれませんか」
暁の不安そうな顔を振り返って見ながらカムクラは言った。
「そ、そうか。怒ってないのなら良かった…………」
「僕がさっき「あなたも」という表現をしたことが気になっているんでしょう。ただ以前、あなたみたく僕の行動に文句を付ける奴がいたことを思い出しただけですよ」
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