第5章 地下鉄にて
「…………」
カムクラは瓦礫の陰からコドモの様子を窺った。
距離は6メートル程離れている。カムクラの反対側に逃げた暁の方がロボットに近かった。
カムクラは瓦礫からサッと抜け出し、ロボットの背後に回り込む。音もなく駆け寄ると、おおよそ常人には不可能な高さの跳躍をしロボットの肩まで跳び乗った。
「……うわぁっ!!?」
いきなり自分の背後を取られるとは思ってもみなかったコドモはカムクラに驚き、呆気なくバランスを崩し地面に落ちる。
「な……なんで………」
唖然としたコドモは震える声を出しながらただカムクラを見上げることしか出来なかった。
カムクラもロボットから飛び降り、造作もなくコドモの首に提げてあるコントローラーを奪い取る。
「…………」
しばしコントローラーを見つめた後、カムクラはそれを地面に捨てそのまま踏み壊した。
「ついでにあなたも殺しておきましょうか……」
無表情でカムクラはコドモを見た。
「……ぼっ、僕ちんは勇者なんだぞ! 勇者が魔物に倒されるなんて……そんな…………!」
「勇者が魔物を倒すのが当たり前で、魔物が勇者を倒すのは有り得ない? そんな訳はないですよ。だって相手から殺されそうになったら死に物狂いで抵抗するのが普通でしょう」
抑揚のない声でカムクラは続ける。
「ゲームのように都合良く先攻後攻が決まっている訳でもないし、死んだら生き返ってやり直すなんてことも出来ないんです。相手を殺すというのなら、相手から殺される想定もしておかないと」
言いながら、カムクラはコドモに向かって手を伸ばした。
コドモはカムクラの異様な雰囲気に怯え歯をガチガチ鳴らしながら涙と鼻水を垂れ流し、極度の緊張からの粗相でズボンと地面を汚していた。
「ま……待てっ! 青年、殺すのは待ってくれ!」
瓦礫から暁が出て来て、カムクラに駆け寄った。
「いくらなんでも殺すことはないだろう。確かにこの子には殺されかけたが、まだ子供だ。ロボットのコントローラーも壊したわけだし私たちにはもう何も出来ないだろう?」
暁がカムクラを説得するが、カムクラはコドモの頭をガシッと掴み手に力を込めた。
「あ"……いだいッ……!!」
「止めろって!」
コドモの悲痛な叫びに堪えかねて暁はカムクラの手を引き剥がそうと掴んだ。
「…………甘いですね、あなたも」
冷めた眼を暁に向けてカムクラはコドモの頭から手を放した。