第3章 奈落の底に堕ちていく
「部屋で待っていろって言ったろ?」
「あらっ。いつまで待ってもお迎えに来てくれないんですもの。待ちわびてしまったわ」
「ったく……星が流れ始めたら呼びにいくつもりだったんだぞ」
「星はまだ?……くしゅんっ」
「風邪をひくだろう。今宵は特に冷え込む」
「ありがとう」
自分の羽織を姫君にかけ、微笑み合う2人を見ているだけで胸が苦しくなる。
もう、これ以上
この場にはいたくない。
幸せそうな2人を見ているなんて……
「……」
不意に身体が宙に浮き、光秀に横抱きをされていた。
「顔色が悪いようだ。残念だが、今宵の星は諦めろ」
「……うん」
光秀の「諦めろ」
その言葉が違う意味で言っているようで、涙が溢れてきてしまう。
2人に悟られたくなくて、光秀の胸に顔を埋め首に腕をまわした。
お願い
早く此処から連れ出して……
「俺達はこれで失礼する。の調子が悪いみたいだからな」
「、大丈夫か?」
お願いだから、そんなに優しい言葉をかけないで
余計に苦しくなるの。
秀吉には愛する姫君がいるんでしょう?
だったら、私なんかに優しい言葉をかけないで
貴方が誰にでも優しいのは知っているけど
私にだけは、優しくしないで。
私を嫌いになって……
溢れでる涙は決して止まらない。