第23章 特別短編 その掌
”おまえのにいちゃん…”
なかないで、わおん
わおんはつよいこ
わおんのこと、みんなだいすき
だから、なかないで?
わおん…
”ちがうもんっ…和音はっ…”
「あれ…和音ったら、ぐっすりだよ」
二宮のお兄ちゃんの声が聞こえた。
「わおんちゃん、ねんねしてます」
「だなあ…おい、響、おまえのせいだろ?」
「え?そ、そんなことないもん」
「どうせ、翼の誕生日プレゼント忘れてたんだろ?」
「ぎく」
「ひびきくん!わるいこ!」
いつの間にか寝ちゃったんだ…
「翔にいちゃんまで…だってしょうがないだろお!」
「ほんとお前、そのおっちょこちょい誰に似たんだよ?」
「しらないよっ!」
「ひびきくん、めっ」
「うわーーーんっ…」
ばたばたと走る音がした。
響が部屋を出ていったようだ。
「なんだあいつは…さて、どうするかな。起こしたほうがいいよな?」
「だめ。わおんちゃん、ねんね」
「でも、もうすぐ始まるし…」
「だめ。わおんちゃん、ねんね」
翔くんは私を寝かせておきたいらしい。
「しょうがねえなあ…じゃあ、あとちょっと寝かせとくか」
ぽんぽんと私の頭を撫でた声は、遠ざかっていく。
「かずくん、いいこ」
「なあんでだよ…もう子って年じゃねえよ…」
パタンとドアが閉じる音がした。