第23章 特別短編 その掌
翔くんにあんなことを言われたから、寝たふりしてるしかなくなっちゃった…
暫くしたら、誰か部屋に入ってきた。
「わおん…?」
翼の声だった。
ふんわりとほっぺたに、翼の手が乗っかった。
「わおん。おきて?」
なんとなく、起きたくなくて。
そのまま寝たふりをした。
「わおん?わおん?」
きゅっとほっぺを抓られたり、頭をぽんぽんとされても起きてやらなかった。
「もー…わおん…」
諦めたみたいに翼の動きが止まった。
暫くそのままじっとしている。
「…いもうと…」
ぽつりと呟いた。
「ぼくの…いもうと…」
笑いを含んだ、優しい声。
すりすりとほっぺたを手のひらで撫でると、翼は部屋を出ていった。
「もう…なんなのよ…」
なんで翼がお兄ちゃんなの?
なんで血が繋がってないのにお兄ちゃんなの?
「わけわかんないよ…」
なんでウチは、普通のお家じゃないの?
なんで翼は…なんで…
ベッドの上でばたばたと暴れてみた。
「もー!!!」
猛烈な勢いでベッドから起き上がると、勉強机の上に置いてある紙包みをひっつかんで、部屋を駆け出した。
「ねえっ!」
リビングに入ろうとしている翼の後ろ姿に叫ぶように声をぶつけた。
「お誕生日おめでとう!お兄ちゃん!」
今年の誕生日プレゼントは、クレヨン
響とお揃いの、クレヨン
いつも私達の絵を書いている、私の大好きなお兄ちゃんが一番喜ぶプレゼントだって…
妹だから、わかるんだからね?
【その掌 おわり】